World Voice powerd by Newsweek

日本人コーヒー生産者が語るコロンビア

松尾彩香|コロンビア

コカインの原料「コカ駆除で新記録」のニュースに喜べないワケ

iStock-tutojons

先日いつもの様に携帯でニュースをチェックしていたらAFPBB Newsでこんな記事を見つけ、思わずため息がでました。

『世界最大のコカイン生産国コロンビア、コカ駆除で新記録』

記事には「南米コロンビア政府は昨年12月30日、コカインの原料となるコカ駆除で2年連続で最高記録を達成したと発表した。」とあります。

これだけを読めばコカインの根絶に一歩近づいたという良いニュースのように見えますが、私は素直に良い事だとは思えませんでした。

私はジャーナリストでも麻薬事情に詳しい人でもないので、こういった話題についてペラペラ喋るべきではないとは思いますが、コロンビア=コカインというざっくりとしたイメージを持っている外国人がとても多いと感じるので、ちょっと踏み込んだところまで知ってもらいたいと思い、今回はこのニュースに関して私が知っている範囲の現状や、感じた事について少し書きたいと思います。

 

コカインとコカ

コカインについては多くの人が知っていると思います。白い粉末で精神を興奮させる作用があるドラッグのことを指します。ではコカについてはどれだけの人に知られているでしょうか?

コカは南米原産の低木で、この木の葉っぱがコカインの原料となります。コカの葉自体には麻薬の要素はなく、この葉を潰してガソリンなどの薬品を加え加工したものがコカインというドラッグになるのです。

コカの葉は昔から高山病の予防として使用され、南米の先住民たちは薬草としてや儀式なんかにも使っていたりします。コカの葉自体は全く危険ではないんですよ。

1850年代にドイツの化学者がコカインを抽出することに成功して以来、はじめは医療現場で使用されていたコカインですが、次第にその作用が娯楽用として注目され始め今に至ります。

 

コロンビアの経済発展の裏で置いてけぼりにされる人たち

コロンビアと聞くとどんな風景をイメージするでしょうか?発展途上国と言われている国なので一帯が森林に覆われていると思われるかもしれませんが、近年のコロンビアの経済成長は著しく首都ボゴタのような大きな都市では高層ビルが立ち並び、その様子は日本とそれほど変わりはありません。

コロンビアの経済は安定して右肩上がりを保っていることから、世界中の企業がコロンビアに注目し進出しつつあります。更に太平洋の港へのアクセスが容易になるトンネルが作られたりとインフラ整備も急速に進んでいることから、これからが期待される国のひとつであるともいえるでしょう。

しかしその裏側でコロンビアの田舎では経済発展とは無縁の地が多くあります。

それらは「忘れられた地」とも呼ばれ、電気や生活用水すら通っていない地域も少なくありません。政府から放置されているのでインフラ整備されることもなく、医療機関もなければ警察もいないので違法武装組織が地域を仕切っていたりする所すらあります。

主要都市の発展が進んでいく裏で、このような地域は置いてけぼりにされ、コロンビア国内の格差や貧富差は年々広がっていく一方です。

コカの葉を栽培している人たち

私は日本にいる頃、コカイン産業に関わっているのは全てマフィアなどの悪い人たちだと思っていました。

しかし、実際コカインの原料になるコカの葉を栽培し収穫しているのは平凡な農民たち。彼らはコカイン産業に関わって大金を儲けようとしているわけではなく、コカを栽培することでしか生きていく為の収入を得る事ができない貧しい農民たちなのです。

彼らの多くは先ほど述べた「忘れられた地」に住んでいます。このような地では都市のような仕事に就くことが困難なため、お金を得る手段は農業か畜産業に限られてきます。

だったらコカではなく野菜や家畜を育てればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そう簡単にはいかないのが現実です。

以前、農家がユーチューバーになったというブログを書いた時にも触れましたが、コロンビアはたくさんの野菜を安く海外から輸入しており、野菜の買取価格がとても安い傾向にあります。

野菜を栽培したとしても、売りに行くには舗装されていない道路を様々な手段を経由して買取場所まで運ばなくてはなりません。それには日数やコストが多くかかってしまうため売り上げから運賃を引くと手元にお金がほとんど残らず、近くで売る事のできるコカの栽培に移行せざるを得ません。

コカの葉も高く売れるわけではないので、それで貧困生活から抜け出す事はできませんが、それが彼らの唯一の生き残る手段なのです。

コカ栽培で生計をたてている家族は国内に23万世帯以上あると言われています。

 

他にやるべきことがあるのではないか

前置きが長くなってしまいましたが、このニュースをみて私が思ったのは「コカ畑を潰す他にもやるべきことはあるのではないか」という事です。

政府はコカイン撲滅の為にアメリカ政府の援助を受けていますが、コロンビア政府はコカ畑の減少させる為の一つの方法としてモンサント社のグリフォサートを飛行機で空中から散布する方法を用いています。手っ取り早く木を枯らす事はできるかもしれませんが、グリフォサートは人体や環境に悪影響を与えると噂されていることから、その地域の住民の健康を害するのではないか、土を殺して野菜などの作物が育たなくなってしまうのではないかと国内でもこの除草剤を撒き散らす事へ疑問の声が上がっています。

また一度コカ畑を枯らせても、それしか生きる術がない農民はまたコカ栽培を始めるのは容易に想像できるでしょう。コカ栽培を減らしたいのであれば生産者を減らせばいいのです。つまり今選択肢がなくてコカの栽培をしている農民に、より多くのお金を稼ぐ別の手段を与えればいいのではないでしょうか。

現に政府は代替作物の援助も行っていますが、ほんの一部の農民しか恩恵を受ける事ができておらず、財源も足りていないということです。また他の農作物を育てさせたところで、道路インフラを進めない限りはまた売りやすいコカの栽培に戻ってしまうかもしれません。

コカインの撲滅は簡単ではありませんし、お金がかかる事は事実です。しかし大統領が目標に掲げる「コカ栽培地の半減」がコカイン撲滅の最善の道かと言えば、私はそうとは思えないのです。

 

私がコロンビアに行くとアメリカ人の友人に伝えたとき、「コカイン買いに行くのか?俺にも持ってきてくれよ」と笑えないジョークを言われた事を今でもよく覚えています。コロンビアで生産されたコカインのほとんどが他国で消費されているのにも関わらず、コロンビアにだけコカインのレッテルを貼られるのはフェアではなく、こういったジョークには憤りを感じます。

コカイン撲滅のためには、貧しい農民からコカ栽培を奪うだけでなく生産者と消費者を減らすためのアプローチも同時に必要なのではないのでしょうか。『コロンビアといえばコカイン』というイメージを払拭するためにもコロンビア政府には引き続き頑張ってもらいたいです。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ