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農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり

森田早紀|オランダ

ミミズが牛豚と同じ扱いを受ける国、オランダ

(筆者撮影 2021年2月)

大量のミミズを土から離して育てると、家畜とみなされる。

伝染病予防のために、家畜には動物性食品を与えてはいけない。ミミズにも、動物由来のものが含まれる食品の残渣などは与えてはならない。

ミミズ堆肥は家畜の糞であり、畜産副産物(※1)。これを堆肥として利用する場合は、高熱処理をしなければいけない。だけれども高熱処理はミミズ堆肥を住処とする多様な微生物も殺してしまう。

これらは、オランダでミミズ堆肥を生産する企業が直面する問題。

※1.日本で「畜産副産物」というと、生肉から枝肉を生産した後のものを指すが、ヨーロッパで「animal by-products」というと、動物由来で人間が消費しないもの、と指す範囲が広くなる。例としては、エサ(魚粉など)・土壌改良剤(糞尿など)・実用的用途(ペットフード・革・毛皮など)が挙げられている。

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(筆者撮影 2021年2月 ミミズ堆肥の高熱処理が、植物の成長に与える影響を調べる栽培実験も、企業研修の一環として行っている)

私が2月から企業研修でお世話になっているStadsWormerijは、オランダ中部の街にある小さな会社。小売店やレストランなどから野菜・果物の切れ端やコーヒーかすを収集し、ミミズの力を借りて、ミミズ堆肥を作っている。(以前の紹介記事はこちらから。オランダの生ごみ事情などについても解説している)

「ミミズ」「ミミズ堆肥生産」はオランダ政府によって認識されていないため、なんという分類にすればいいのかわからない。生ごみを収集してエサとしているから生ごみ処理団体?堆肥生産団体?家畜業者?ゆえに制度の間に挟まり、可笑しな縛りがでてくる。

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(筆者撮影 2021年2月 StadsWormerijのミミズ箱。表面を覆った布の上にも這い上がってきていた)

では、家畜だから、一匹一匹を登録しなければいけないのか。  -??

堆肥箱の中でミミズが死んでしまった場合は?共食いしないようにすべて取り除くべきなのか。 -??

グレーゾーンのミミズ堆肥販売

ミミズ生産」はオランダでも昔から行われているが、「ミミズ堆肥生産」と違うのは、最終生成物がミミズだというところ。釣り用やミミズ堆肥用にミミズそのものを売っている。その過程で出るミミズの糞、いわゆるミミズ堆肥は、副産物として販売されている。

正直なところ、ミミズ生産団体によるミミズ堆肥の販売はグレーゾーンだそう。オランダ食品消費者製品安全庁(NVWA)は、市場に出回っているのは少量だからと見てみないふりをしているらしい。

そんなこともあってか、ミミズ堆肥の品質は管理されていない。ミミズ生産用のミミズはピートモス(苔などの植物が堆積・腐植化した泥炭を乾燥・粉砕した土壌改良剤)の中で飼われていて、エサは穀物の粉末等。参考までに、あるミミズのエサの原材料:

パン粉、ジャガイモでんぷん、ジャガイモ蛋白、デキストロース、マルトデキストリン、粉末ブドウ糖、オートフレーク、炒り小麦粉(?)

また別のミミズのエサ

酵母、小麦粉、粉末大豆、トウモロコシ、大豆油、炭酸カルシウム

効率よく、早く太らせるのを目的に育てられている、まるで人間用の栄養サプリみたいだ。が、健康なミミズは育たないだろうし、ピートモスや穀物に頼っているという時点で環境への負担も大きい。もちろんその副産物のミミズ堆肥も環境に良いとは言えないだろうし、品質は保証されていない(そもそも制度が存在しない)。

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(筆者撮影 2021年3月 Growshopで手に入れたミミズ堆肥3種類のうち一つ。これらとStadsWormerijのミミズ堆肥の効果を検証する)

ミミズ生産者の直接販売(ネット含む)のほかにも、ミミズ堆肥を取り扱っている場所がある、その名もgrowshop。もともとは室内栽培の資材を売る店を指す言葉だったが、オランダではいつの間にか、麻・大麻の栽培資材を取り扱う店を指すようになっていた。

ここでのミミズ堆肥の取引もグレーゾーン。畜産副産物に関して法律で定められているようには高熱処理されていない商品や、オランダの制度ではミミズ堆肥は含まれていない「土壌改良剤」と名乗っている商品があるそう。

特別許可の期限が切れたら...

このような状況下でStadsWormerijは、市から期限付きの特別許可を得て、ミミズ堆肥を生産・販売している。最低70℃で1時間の高熱処理を施した残渣を与えること、動物由来のものが含まれる食品残渣は与えないこと、などという条件付きで。

しかし特別許可の期限が切れる前に、今後どうするかを考え行動しなければいけない。事業内容、ミミズの分類、法律制定の方法などという観点から、複数のシナリオが考えられる。

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(筆者撮影 2021年2月 StadsWormerijで)

ミミズ堆肥生産企業はいったい何者なのか。生ごみ処理団体?堆肥生産団体?家畜業者?はたまた「ミミズ堆肥生産企業」と認識してもらえるのか。

ミミズとは何者なのか。牛や豚と同じ家畜?ミミズ堆肥を作るための手段?虫?これはミミズ堆肥の分類にも関係してくる。

ミミズ堆肥とは何なのか。堆肥?家畜の糞?その他の畜産副産物?それとも「ミミズ堆肥」?定義によって、使える原材料や高熱処理の義務化、扱いが変わってくる。

どのように制度を決めていくのか。オランダ農業・自然・食品安全省(LNV)がミミズ堆肥に関する法律を制定する?公的機関に、パイロット事業として認めてもらい、ともに法律制定を進める?法律制定を待たずに、グレーゾーンで生産し続け、いつかはミミズ堆肥に関する法整備ができることを願う?オフィスの人が勝手に法律制定を進めると、現場に会っていない制度ができてしまう、というリスクがある。ミミズ堆肥生産の先駆者として、StadsWormerijが法律制定に携わる意義は大きい。

スプラウト業界から学ぶこと

友達にこの話をしていたら、「何か大きな出来事があったら、制度も変わると思う」とコメントが。そして、彼女が働くモヤシ業界での事例を教えてくれたのでここでも紹介する。

モヤシやカイワレなどのスプラウト(発芽野菜)は他の野菜とは違うし、加工食品でもない、何に分類すればいいのかあいまいな食品だった。従って、どの法律や制度を適用すればよいのかもはっきりせず、不手際な品質や安全性の管理の原因となっていた。

そのような中で2011年5月、ドイツでの報告を発端に、西ヨーロッパで腸管出血性大腸菌E. coliが大発生した。原因は、エジプトから輸入されたスプラウト用のフェヌグリークの種だったと判明したのは、最初の報告から約2か月後。大発生が終わったと宣言された7月下旬までに、4000人以上の感染者と50数名の死亡者が出た。

加えて、原因となったフェヌグリークのスプラウトだけでなく、調査が始まったころに誤って発生源とされたスペイン産のキュウリ、そして生野菜全般が風評被害を受けた。

これを受けて2012年、欧州発芽野菜協会(ESSA)が発足。スプラウト生産者を代表する会員制の非営利組織で、フォーラムの開催・会員への助言・政策提言などを行っている。また、欧州連合は2013年に、スプラウト関連の法律を新たに4つ制定した。スプラウト生産のもととなる種子のトレーサビリティや品質管理に関するものも含まれている。

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(筆者撮影 2021年3月 ミミズ堆肥の栽培実験のために発芽させたレタス。間引いたものはそのままパクり...何事もなかった)

現状グレーゾーンに位置するミミズ堆肥も同じように、品質・安全管理の制度等が整っておらず、グレーゾーンの市場で出回っているミミズ堆肥は安全なのか、効果があるのか、さらには本当にミミズ堆肥と呼べる商品なのか、疑わしいところもある。

2011年のスプラウト・食中毒のような問題が、堆肥の使用に関しても起こったとしよう。その原因が、ある一つのミミズ生産業者だとしても、もしくはミミズ堆肥が誤って原因とされた場合にも、ミミズ堆肥全体の信用・評判は下がるだろう。

特に現代の、長くて複雑な食のサプライチェーンにおいては、グレーゾーンで管理されていないと誤魔化しが利く・問題が発生した際の原因解明が困難などといった課題が多い。顔の見えない関係は悪用されやすい。これを防ぐためには規制は不可欠なのかもしれない。だからといって、過剰に規制され、例えば高熱処理が義務化されては、ミミズ堆肥の真の価値が失われてしまう。

規制の緩和と強化は、顔の見えない取引が大半となり、様々な組織を一つの制度で管理しなければならない現代社会において、複雑な問題なのだと感じた。

おまけ

ミミズ堆肥の高熱処理に関して何度か言及した。高熱処理は、病原菌だけでなく有益な微生物も殺してしまう。ミミズ堆肥が持つ植物の病害虫耐性を高める効果も失われてしまうらしい。

【次のページ:「ミミズ堆肥に効果はあるのか?」の検証動画】

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著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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