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農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり

森田早紀|オランダ

オランダでオーガニック農家として生きること

(筆者撮影 2021年5月 収穫したスイスチャード (和名:フダンソウ)色鮮やかで、束ねるのも売るのも料理するのも楽しい)

「町内に大手オーガニックスーパーの店舗ができたとしても、それはチャンスだ」

そう語るのは、Tuin De Es(直訳すると、カエデの庭園)のオーナーの一人 Bartさん。オランダ南部に位置し、農業大国オランダの中でも生産額2割でトップを占める地域、北ブラバント州でオーガニック農業を営む。

2012年に妻のDaniëllaさんと共に、それまでのオーナーからオーガニック・ケアファームの事業を引き継いだ。3ヘクタールの土地で、約80種類の作物を育て、直売店とマーケットでは直接消費者に、加えて卸売店や飲食店、農家仲間にも売っている。農園ではそれと同時に、高齢者のデイケアサービス、精神的な問題を抱える人への働く場の提供、一般労働市場で働きたい・復帰したい人の支援を行っている。

今回はBartさんが、一オーガニック農家として、持続可能な食や政策、オーガニック市場に関してどのようなことを考え感じているかを伺った。もちろん意見は人それぞれなので、こういう考え方の人もいるのか、と参考程度にしていただければ幸いだ。

※数日にわたって行われたインタビューを、編集の都合で順番等を調整して記事にしています。

オーガニックにこだわるわけ

― なぜオーガニック農業をやろうと思ったのですか?

端的に言うと、自然環境、健康、そして差異化を図るため。

人間が自然環境に与える影響において、食べ物は大きな割合を占めている。さらに面白いことに、自然環境にとって良い食事は人間にとっても健康的なことが多い。だから農業・食の分野で行動を起こすことは社会的にも環境面からも大きなことだと思う。

オーガニック農法で栽培するだけでなく、旬の食材で美味しい料理を作ること・動物性食品の消費量を減らすことなども大切だと思う。毎日この農園で、デイケアサービス利用者やボランティア・インターン・スタッフに提供する(もしくは一緒に作る)お昼を通して、インスピレーションを与えられればとも考えているよ。

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(筆者撮影 2021年4月 ランチ、この日はほうれん草のスープ、ホワイトアスパラとほうれん草のキッシュ、サラダ、パスタ。ほうれん草がたくさん採れたのでほうれん草尽くしのメニューが続いた。が、美味しいので飽きなかった)

ー ちなみに、Bartさんにとって「持続可能な食」とは何ですか?

一番重要だと思うのは、カーボン・フットプリントを減らすこと。

あとは、土を大切にすること。この土地は幸い、前の代から40年にもわたってオーガニック農地として使われてきたから、有機物に富んで健康なんだ。これを守りたいね。

※カーボン・フットプリント:生産から消費、廃棄までの間の温室効果ガス排出量を二酸化炭素相当に換算したもの

ー あるレポートで、調査の対象となったEU11か国では、「持続可能な食」の捉え方が異なると知り興味深く感じました。その中でも多くの国で共通していたのは、環境に配慮していること・農薬を使わないこと・遺伝子組み換えを使わないことだったのですが...

それはまた面白いね、私自身は遺伝子組み換えは使っていいと思っている。オーガニック認証制度では禁止されているから、使っていないけれどね。より良い味や病害虫耐性、収量アップへの近道だと思うから、もちろん安全性は確認したうえで、取り入れた方がいいと思う。

人々が、科学技術を過度に恐れていることを危惧しているよ。

前回の記事:「持続可能な食」のレポート紹介。「サステイナブル」が操り人形となっている

― オランダでオーガニック農家でいること、どう感じていますか?

8年間オーガニック農業を営んできて、自分自身はこのやり方に納得・確信している。でもオーガニック農業に疑問を呈する科学的根拠があることは知っているし、時にはそれに敏感になることがある。

本当に世界の人口をオーガニック農業で養えるのか、などという質問は難しいよね。

さらに、オーガニックが制限になっていると感じることもある。例えば、オーガニック制度に登録されていない新しい品種を育てたいと思ったときに、栽培許可が下りるまでに時間やお金がかかる。

ー 2019年にEUのグリーンディールで掲げられた目標に準じて、オランダも2030年までに農地の25%をオーガニックにすることになっています。これに関してどう思いますか?

実際にどうなるのかが気になるところだね。

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(筆者撮影 2021年6月 右はルバーブ、左は麦とクローバーが育つ休閑地)

オランダは今まで、輸出・効率化を強みとした農業で国際競争力を獲得してきたし、実際に国の経済の基盤でもある。さらに、オランダの現在のオーガニック農地面積割合はたったの3%。オーガニック転換の必要性を受けて、本当に達成できるのか気になる。

また、どうにか25%の目標を達成できたとしよう。供給過多で価格が暴落してしまうことを恐れている。従って、需要 人々の意識・関心を高めるような取り組みも不可欠だと思う。

ー 昨今は農業・食分野にも様々な認証制度がありますが、Tuinderij De Esではどのような認証を受けていますか?

EUオーガニック認定、オランダのEKO認定(EUオーガニック・プラスαの取り組みをしている団体を認定する)、そしてケアファームとしての品質証明のKwaliteit laat je zienの3つの認証を受けている。

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(筆者撮影 2021年4月 Kwaliteit laat je zienの楯)

以前の記事:EUオーガニックとオランダEKO認定の比較
ケアファームの品質を保証する制度を解説

ー EUオーガニック認定には、どのような価値を感じていますか?

顔の見える関係で、私たちのことをよく知っている人々だけに売るのであれば、オーガニック認証がなくても問題ない。直接伝えられるし、信頼関係があるからね。

しかし、より大きなターゲットグループに売る場合には、コミュニケーションと信頼の構築の役割をラベルに担ってもらうことになる。さらに、スーパーなど直販以外の販路に乗せる場合は、認証がないと取り扱ってもらえないからオーガニック認定は不可欠だ。

ー では、オランダのEKO認定の価値は?

近年、再ブランディングされたEKO認定は、まだ消費者の間で認知が広がっていない。投資として数年間、認定を受けるつもり。もしその間に、EKOブランドが消費者からの認知・信用を得ることができず、付加価値を生まないようであれば、辞めるかもしれない。

ー ちなみに、オーガニックやEKO以外にも環境・地域にやさしいと謳う認証が沢山生まれていますが、これらに関してはどう思いますか?

多くは、緩い基準や監査に基づいた、紛らわしい制度だと思う。それに比べて、EUオーガニック定は、EUの法律と監査機関による毎年のチェックに基づいているから、信頼できる。

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(筆者撮影 2021年6月 定植後のピーマンの苗に、Typhlodromips swirskii(ダニの一種)の卵が入った袋をぶら下げた。コナジラミ類を摂食する天敵だ。益虫の使用はオーガニック農業でも認められている

あまりにも市場に認証制度とラベルが溢れているがために、消費者の間でのオーガニック全体に対する信用を下げてしまっているかもしれない。また、オーガニック食品は値段が高いだけ、という印象を持つ人も一定数いると感じていて、これも危惧している。EUオーガニックは信用できるものだという認識が広がってほしい。

以前の記事:様々なラベルで混沌を極めるオランダの乳製品市場

ー ここまで聞いたので、3つめの認証についても聞かずにはいられません。ケアファーム認証Kwaliteit laat je zienの付加価値はどこに感じますか?あまり知られていない制度ですよね、私自身ここに来て初めて知りました。

認知が広がっていないのは確かだね。認証を受けるまで、そしてそれを保持するために手引きを作ったり、フィードバックに基づいて改善計画を施行したりと、たくさんの努力をしているから、それが知られていないのは少し悲しい気もする。

ただ、この認証を受けられるということは、ケアファームとしてやるべきことをしっかり行っているということ。

一農家としてケアファームや介護分野に関する法律・決まり事すべてを把握するのは難しい。複雑だったり、ころころ変わったりするからね。だから、この制度で定められたことに従っていれば、ケアファームとしてきちんと義務を果たしているのだと安心できるよ。

ー 最後にお伺いしたいのは、話を戻してオランダのオーガニック市場についてです。近年、地域や国内全体でオーガニック農家・直売店・オーガニックスーパーの数や普通のスーパーでのオーガニック食品の扱いが増えていることを受けて、市場での競争が激しくなっていると感じますか?

私自身は、競合の脅威は感じないね、むしろ可能性が広がるから。

例えば、町内に大手オーガニックスーパーの店ができたとしよう。もちろんここの直売店からお客さんが流れて行ってしまうこともあると思う。でも、そのスーパーの店舗に、「地産地消・採れたての野菜を届けることができますが、取り扱ってくれませんか」と話に行くこともできる。そうすれば、スーパーにとっても私たちにとっても有益な解決策を見つけることができるだろう。

もう一つ例を挙げると、地域のオーガニック農家との協力を私は大切にしている。勉強会を開いたり、同じ野菜で別品種の生育や味の比較を一緒にしたりするなど、一緒に成長できる環境なんだ。

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(筆者撮影 2021年6月 Tuinderij De Esの直売店。採れたての野菜が手前に並ぶほかに、他の生産者や卸売業者から取り寄せた青果・チーズ・穀物などが売られている)

近くにオーガニック農家やケアファーム、直売店などができた際には、お互いにとって快い形で交流を始められるように、アプローチの方法に気を付けているよ。

 

ー Bartさん、ありがとうございました。

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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