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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

シアトルの長い冬 ~ 季節がもたらすうつ症状とは

シアトル・ダウンタウンの風景。ランドマークのスペースニードル。(出典)https://pixabay.com

 真冬のシアトルは、日照時間が8.5時間しかなく昼間もそのほとんどが雨でどんよりとした曇り空。午後4時を過ぎるとだんだん暗くなり、5時前には真っ暗な状態になる。この気候にも今はずいぶん慣れたが、最初の頃は冬の朝まだ真っ暗な中起きるのが本当に憂鬱で気が滅入った。

 気分の落ち込みは誰でも経験することだが、実はこの時期に陥りやすいのが、特定の季節にだけうつ症状が出てくる「季節性情動障害」(SAD)だ。「季節性うつ病」や「ウィンター・ブルース」とも呼ばれていて、気力が低下したり睡眠や食事のリズムが崩れたりするのが一般的な症状。もし、冬にだけ「気分が落ち込む日がつづく」、「朝起きられず、だるくて横になってしまう」、「食べ過ぎで体重が増えた」などの症状が出て毎年のように繰り返すようなら、SADを疑ってみてもいいかもしれない。

Seattle Weather Blogのツイートより。4月までずっと雨。

 アメリカでは成人人口の約5%がSADを発症すると言われており、若者や女性がなりやすい。シアトルなど高緯度で日照時間の短い地域での発症率が高く、ニューハンプシャー州のSAD患者数はフロリダ州の7倍にものぼる。その原因は、暗くなると分泌される睡眠ホルモンのメラトニンが過剰になって倦怠感を感じる、その逆に日光の刺激により分泌される「幸せホルモン」のセロトニンが減ってしまうためと推測されている。セロトニンが少ないとストレスの影響を受けやすくなり、睡眠や食欲のバランスも崩れて抑うつ状態になりやすくなる。

 そこで治療にはセロトニンを増やすSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬の処方があるが、25歳以下は抗うつ薬で自殺や攻撃性のリスクが2倍になるという調査結果も出ているので慎重な判断が必要だろう。また、通常の室内照明の100倍の明るさである1万ルクス以上の強い光を朝に30分から1時間ほど浴びる光療法がある。光療法のみでの効果は薄いとされているが、抗うつ薬との併用で効果は強まる。その他、ビタミンDのサプリ摂取も一定の効果はあるが、気分の落ち込みがひどいようなら一度かかりつけの医師に相談してみたほうがいいだろう。

 また、季節性と言ってもその症状はうつ病とほぼ同じなので、うつ病になりやすい思考の癖を探り生きやすい方向性に変えていく「認知行動療法」が効果的だ。うつ病は「真面目な人がなる病気」と言われるように、責任感が人一倍強くて自他ともに厳しい完璧主義タイプの人がなりやすい。うつ病の治療法である認知療法を開発した精神科医のアーロン・ベックによると、うつ病になりやすい人は「自責の念が強く、悪いことを拡大解釈してすべてが悪いと考える」悲観的な考え方をするタイプだ。こうした考え方は、自分では気づかないうちに自責の念を強化してしまい、自殺のリスクも出てくるので注意が必要だ。

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責任感が人一倍強くて完璧主義タイプの人がうつ病になりやすい。(出典)https://pixabay.com

 自殺の兆候としては、自己否定的な発言や投げやりな発言をする、気分の落ち込み、学校や会社を休みがちになる、身だしなみを気にしなくなる、睡眠サイクルの乱れ、拒食や過食、過剰飲酒、頭痛や腹痛などの体の不調を訴える、自傷・他傷行為をおこなう等。とくに若者の場合は衝動的な行動に出やすいので、異変を感じ取ったらすぐに病院やカウンセリングに連れていくなど迅速な対応が必要だ。

 自殺をした約80%の人が、周囲に自殺をほのめかすサインを出していたという調査もあるので、たとえ冗談であっても死ぬ事についての話が出たら深刻に受け止める事が大切だ。 たとえば、友人や家族から冗談まじりに「死にたいな」、「もう疲れちゃった」と言われた時、または親子喧嘩の最中に「私なんていない方がマシでしょ」、「死んでやる」などと言われた時、そのまま流さずに深呼吸して落ち着いてから「死にたいと思ってる?」、「自殺を考えた事あるの」と穏やかに聞く事。

 自殺について話す事は多くの人に抵抗があるだろうが、自殺についての理解を深めてオープンに話せる環境を作ることが自殺率を下げるのに効果的であると多くの調査で報告されている。早めの徴候を見逃さず、一人で抱え込まずに第三者の支援を求める事が何よりも大切だ。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、15年間ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。2011年の東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウェスト大学院でカウンセリング心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える人々にセラピーを提供している。悩みを抱えている人、生きづらさを感じている人はお気軽にご相談を。


ウェブサイト:http://www.lifefulcounseling.com

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