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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

森会長の「女性蔑視」発言 〜 日本は男尊女卑の国!?

(出典)ウォール・ストリート・ジャーナル紙 https://www.wsj.com/articles/japan-olympic-chief-yoshiro-mori-to-quit-after-sexist-remarks-11613028755

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と女性差別的な発言をしたことについて、その波紋は止まることなくさらに広がっている。

 インターネット上では森会長の辞任を求めるオンライン署名運動がいくつも立ち上がり、なかでも「森会長の処遇の検討を求める有志」による署名運動には世界中から15万筆近くの署名が集まった。同氏は、会長職の辞任に関して当初は否定していたものの、世論の批判に押される形で11日にようやく辞任する意向を固めた。この一連の騒動はアメリカでもCNNウォール・ストリート・ジャーナル紙など主要メディアでこぞって報じられた。

日本は男尊女卑の国!?

 多くのアメリカ人はこのニュースを見て、「日本は男尊女卑の国であり、男女平等という観点ではきわめて後進国」という思いをますます強めたことだろう。電車の中吊り広告ではビキニ姿の女性、テレビに出演する女性の多くも補助的な役割、政治やビジネスの世界でも指導者の女性はまだまだ少ない。実際に、2019年の男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ (不均衡) 指数」では、日本は前年の149か国中110位からさらに順位を落とし、中国(106位)や韓国(108位)、タイ(75位)やインド(112位)よりも下位の153か国中121位で、過去最低となった。

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 また、毎年「国際女性の日」に発表されるイギリスのエコノミスト誌による「ガラスの天井指数」でも、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国29カ国中28位と不名誉な結果を得ている。この指数もまたジェンダーギャップ指数と類似しており、男女の学歴、労働力率、給与、育児費用、産休の権利、ビジネススクールの申請数、上級管理職の割合などを基準にして算出した数値。

 「ガラスの天井」とは、女性やマイノリティが白人男性と同等の業績を出していても、上級管理職やトップの地位には昇進させないようにする企業や組織内の見えない障壁のこと。アメリカの企業コンサルタントのマリリン・ローデン (Marilyn Loden) が1978年に初めてこの言葉を使用し、1984年以降はさまざまな雑誌や新聞でも紹介された。ちなみに、日本では1986年に男女雇用機会均等法が施行され女性の総合職が初めて登場し、1988年にはキャリアアップを目指す女性のためのビジネス誌『日経ウーマン』が創刊されている。

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(出典)英エコノミスト誌「ガラスの天井指数」

アメリカでもいまだに続く女性差別

 しかし、正直に言って、日本だけではなく、アメリカでも女性の扱いはひどいと思う。大手IT企業に勤めていた知り合いのアメリカ人女性は、男性の上司から会議のあと冗談半分に「髪の毛をダークカラーに染めたら、君の話もまともに聞いてもらえたんじゃないかな」と言われたという。彼女は、生まれながらに金髪ということでこれまで散々軽く見られてきた。憤慨して会社を辞めたが、思い出すと今でもムカついて怒りが収まらないという。

 また、女性であるというだけで身の危険を感じた経験は、圧倒的にアメリカの方が多い。アメリカの都市部では、昼間でも女性が通りを一人で歩いているだけで、「キャットコール」と呼ばれる性的な冷やかしや野次の対象になる。やっている側は軽い気持ちかもしれないが、される側はきわめて腹立たしいし、何をされるか分からない怖さもあり、ものすごいストレスを感じる。ほかの女性に聞いてみたところ、多くの女性が同じような被害に遭っていた。

 「女性がNYの街を10時間歩いてみたところ」という有名なYoutube動画を観てほしい。若い女性が、Tシャツとジーンズという普段着でマンハッタンの街をただ歩くという社会実験だが、あらゆる年齢・人種の男性から100件を超えるセクハラ発言を受け続けた悲惨な様子が隠しカメラで捉えられている。なかには、舐めまわすように体を見つめたり、しつこく後をつけたり、無視したら逆ギレする男性もいた。なお、無数のウィンクや口笛はこの100件には含まれていない。

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 この動画に触発されて、洋服や条件を変えて同じ実験を行った動画が数多くアップされた。たとえば、「ヒジャブを纏った女性がNYの街を10時間歩いてみたところ」という動画では、まったくの同一人物の女性が、最初の5時間はカーディガンとパンツという普段着で、次の5時間はヒジャブを纏いNYの街を歩いた。その結果は、女性が普段着で街を歩くと、最初の動画と同じように数多くの冷やかしや野次が飛ばされ、しつこく後をつけられたりした。

 しかし、同じ女性がヒジャブを纏って歩いたところ、まるで存在していないかのように無視され、一人の男性からもセクハラ発言を受けないという結果になった。正直、彼女がヘイトクライムの被害に遭わなかったことにホッとした。なお、今は新型コロナの影響で、アジア人もまたヘイトクライムの標的になっていることを付け加えておく。

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 また、「ゴシック・ファッションの女性がNYの街を10時間歩いてみたところ」という動画では、典型的なゴシック・ファッションに身を包んだ若い女性が同じようにNYの街を歩いたところ、性的な冷やかしの代わりに、「もうハロウィンは終わったぜ」、「これから葬式に行くのかい」などの侮蔑的な野次や暴言を666件以上も吐かれた。

 驚いたのは、女性の横に牧師のような格好をした男性が並んで歩き出し、隣で13分間聖書を読み続け、最後に「Jesus saves (神は救い給う)」と言い残して去っていった場面だ。もしゴシック・ファッションに身を包んでいるのが若い女性ではなく屈強な男性だったら、牧師は同じように執拗に付きまとっただろうかと訝ってしまう。

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 ほかにも、「街で野次を飛ばされる母親を見た息子の反応は?」「街で野次を飛ばされる娘を見た父親の反応は?」なども、男性としての感覚と、家族としての感覚が交錯して興味深い。自分の母親や娘が性的対象やモノのように扱われることに怒りを覚えるこれらの男性が、ほかの女性に対しても同様に尊敬の念を持って接することを願いたい。

 さらに、場所を変えて実験した動画「黒人女性が東京の街を10時間歩いてみたところ」は、ジーンズにジャケットという出で立ちの黒人女性が東京の街を歩いたというもの。彼女は野次を飛ばされることなく、無視されるわけでもなく穏やかに道を歩いていた。日本の街では、少なくとも日中はウザい冷やかしや野次に苛立つこともないし、性犯罪やヘイトクライムの被害に遭う不安や恐怖を感じることはほとんどない。女性が安心して一人歩きができる治安の良さは世界に誇っていいと思う。

世界に蔓延する「ミソジニー (女性嫌悪)」

 アメリカだけではなく、イギリスでも同様に女性に対する性差別やセクハラ行為が横行していることは、 「エブリデイ・セクシズム・プロジェクト」を立ち上げたローラ・ベイツのTEDトークに詳しい。いわゆる先進国と言われる国々でも、女性が日々どのような扱いを受けているのかが良く分かる。日本語訳もあるのでぜひ観てほしい。たまたま以下の3つの「嫌なこと」が同じ週に起きたため、ローラはその異常性に気づいたという。

・歩いていると車がすっと横につけてきました。中の男たちが窓からうるさく声をかけてきて、私の脚がどうとかあんなコトやこんなコトしたいなどと言われました。

・(バスの中で)気付くと男は実際、私の脚をわし掴みに触っていて、手が私の股間に向かっていました。

・(街中で)私が通りかかると1人がもう1人に向かって言いました。「見てみろよ あのオッパイ」人ではなくモノ扱いです。さらに私についての話を、まるでそこにいない人かのように始めました。目の前を歩く私には丸聞こえでした。

・この一連の出来事に関して本当に衝撃的だったのは、もし同じ週に起こっていなかったら、私自身どれ1つ思い出しもしなかっただろうということです。

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 ローラは、ほかの女性にも似たような経験をしたことがあるかを尋ねると、全員が同様な被害を受けていたそうだ。しかし、「訊かれるまでは誰にも一度も話したことがなかった」という。こうした体験を共有するため、彼女は「エブリデイ・セクシズム・プロジェクト」というサイトを立ち上げ、ジェンダー不均衡についての体験を投稿するよう呼びかけたところ、1年半で世界中から5万人の女性から体験談が集まったそうだ。

女性も男性も生きやすい国にするためには

 こうした他国の例をあげるのは、日本で女性が受けている差別を矮小化するものでも、森会長の「女性蔑視」発言を擁護するものではない。むしろその逆であり、世界に蔓延する「ミソジニー (女性嫌悪)」に対して、日本もまた国境を超えて世界中の人々と団結して、社会を変革する必要性に迫られているのだと訴えたい。

 差別意識は、誰の心のなかにもある。それに気づいた人が声をあげて変革していくことが重要だ。これまで、当たり前と思ってやり過ごしていた日常のささいなやり取りに、疑問を持とう。差別される女性側もまた、男性優位の社会通念や価値観を刷り込まれ、内部化していることに気がつこう。

 男性側から見たステレオタイプな女性像を嫌悪する、もしくはそれに迎合する、または、ほかの女性と比較して優越感や劣等感を抱くといった内部化パターンを以下にあげてみた。()内は男性側から見たステレオタイプ的な女性の特徴や役割の例である。

・女性は(結婚して子供を産む・愛される・外見がいい等)のが幸せだ。

・女性は(車の運転・論理的に考える・指導者になる・簡潔に話す等)のが苦手だ。

・女性は(もっと自己主張する・年相応にふるまう・謹む・男性を立てる等)べきだ。

・(自慢する・人の話を聞かない・自己主張が激しい・男性に媚びる等)女性は嫌いだ。

・私はほかの女性とは違って(感情に流されない・仕事ができる・やり手・冷静・賢明・有能等)である。

・(性被害・ストーカー被害・ハラスメント)に遭った原因は、女性にもあったかもしれない。

 自分自身のなかにもある女性差別、森会長の発言、日常的に起きる女性へのハラスメントは、一つ一つが独立した問題ではなく、すべてつながっている。女性を軽んじる社会の風潮がありとあらゆる分野に浸透し、強いてはより重大な家庭内暴力、性的虐待や強姦にもつながっていく。

 できることは、たくさんある。セクハラ発言をこれまでのように無視したり笑って済ませず、毅然とした態度で「やめてください」と言おう。自分が受けた差別体験を家族や友人と共有し、周囲の人々の意識を変えよう。男友達や息子に、女性を蔑むような冗談に対して一緒になって笑わないよう教育しよう。「エブリデイ・セクシズム・プロジェクト」の日本語ページに自分の体験を書き込もう。悩んでいる女性をサポートしよう。みんなで恐れずに声をあげて、女性も男性も生きやすい国に変えていこう。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、15年間ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。2011年の東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウェスト大学院でカウンセリング心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える人々にセラピーを提供している。悩みを抱えている人、生きづらさを感じている人はお気軽にご相談を。


ウェブサイト:http://www.lifefulcounseling.com

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