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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

伝統料理に使われるスエットは心も体も温めるのかもしれない

(スエットを使ったお団子は上の写真のようにスコーン型で抜く方法もよくあるらしい。スエットのお団子を表面にぎっしりおいた料理をコブラー(玉石を敷き詰めた道)と呼ぶのもかわいくて好きだ。i-Stock ©︎ mtreasure)

20歳で初めて語学留学をして以来、英国には何度も来ていたけれど、英国人の夫と暮らすようになって初めて知った食べ物や生活習慣はとても多い。スエットもそのひとつだった。

スエットは牛や羊の腎臓あたりについている脂のことだ。日本語ではケンネ脂というらしい。これを料理に使うと聞いて、脂をわざわざ食べるの? と初めはびっくりしたけれど、考えてみたら日本でも使う牛脂はまさにスエット。自分では牛脂を使った覚えはなかったが、実家では牛肉をいただいたときに使っていたはずだ。熱くしたすき焼き鍋にまず見慣れない白い塊を敷いてから肉を入れるのは、高級なお肉を食べるときのちょっとした儀式のようで楽しかったものだ。

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(スエットの写真が見当たらなかったので、これは豚の脂であるラードの写真。スエットも見た目はほとんど同じだ。スーパーにはあまり置いていないが、肉屋さんに行くと切り分けてくれて、それを細かく削って使う。i-Stock ©︎manyakotic)

調べてみると日本でもハンバーグや肉じゃがにスエットを使うレシピがずいぶんあるので、スエットはわたしが思ったより日本で使われているのかもしれない。英国では古くからスエットがよく料理に使われていた。バターより安いし、堅くて常温で溶けにくくて使い勝手がいいそうだ。

スエットを使った料理でます最初に思い浮かぶのが焼いたパイ。生地にバターではなくスエットを練り込むと、ビーフやラムの旨味が生地にもなじんでしっかりこくが出る。だから中身はたいてい肉料理で、わたしが英国で最初にスエットに出会ったスエットのもこの焼きパイだった。

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(これは初めて出会ったときのものではなく、少し前に夫が焼いたスエット生地のパイ。中身は鶏の煮込み。余った生地で表面を飾るのが焼きパイ作りのお楽しみで、このときは夫の孫娘が来ていたので「ペイジ」と名前が入っている。筆者撮影)

スエットを使った焼きパイは見た目はバター生地と変わらないけれど、食感がかりっと仕上がる。そしてとにかくお腹にずっしりたまる。夫はこのずっしり感がたまらないらしく、パイ料理にはスエットがベスト! と自慢げに話す。

「焼きパイ」という言い方がしつこいとお思いになったかもしれないが、実は英国には「蒸しパイ」というジャンルもある。焼きパイと同じような生地で中身を包み込み、何時間もひたすら蒸すスティーム・プディング(steam pudding)という調理法だ。

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(牛肉と腎臓を煮込んだものを生地で包んで蒸すステーキ&キドニー・プディング。中身が同じでも、ステーキ&キドニー・パイという名前だと、蒸したのではなくオーブンで焼いたという調理法がすぐわかる。プディングは英国ではデザートという意味もあるし、マッシュポテトを使ったものもパイと呼ぶしで、料理の名前だけでも英国人はほんとにややこしい。i-Stock ©︎ JoeGoush)


例えば上の写真のステーキ&キドニー・プディング。代表的な伝統料理だが、最低でも1時間半は蒸し続けるという昔ながらの気の長い調理法のせいか、今では作らない家庭が多く、レストランのメニューにあるのを見ると「おお!」と目をハートにする英国人が多い。蒸しパイには圧倒的にスエットを使う。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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