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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

今年はどうなる?ブラジル、真夏のクリスマス

南半球のクリスマス、サンタクロースも暑くて大変そうだ(Photo by i-Stock)

南半球のクリスマスを想像したことがあるだろうか?

私は高校生の頃に部活の遠征でクリスマス後のフロリダを訪れた事がある。
ホームステイ先は家の外も中もクリスマスの飾りでいっぱいで、雪がちらつく寒さを温めてくれる暖炉の隣には豪華なクリスマスツリー。まるで絵にかいたような光景だった。

2010年、初めてブラジルを訪れたのもクリスマス後だった。
ブラジルもアメリカと同じように、クリスマスが終わると早々に正月モードではなく、所々でクリスマスの名残を感じることができる。何よりも私が驚いたのは、リオデジャネイロの海岸沿いにあったサンタクロースのオブジェは白いタンクトップを着てビーチチェアーに寝ころんでいた。
忘れてはならない。南半球のクリスマスは夏なのである。

想像もしていなかったブラジルのクリスマスだが、同じく忘れてはならないのはブラジルと宗教の関係である。
元はポルトガル植民地で、独立してからもヨーロッパから多くの移民を迎えたブラジルでは、ヨーロッパ人の上陸とともにキリスト教が普及した。国内にも歴史ある教会や修道院をみることができるだろう。
キリスト教は奴隷として連れてこられたアフリカ系の黒人を改宗させる役割も果たしていた。
このようにキリスト教との関わりが非常に深いブラジルでは、クリスマスは年間の一大イベントとして扱われている。

現代におけるブラジルと宗教
今から100年前、国民の99パーセントがカトリック系の信者であった。
リオデジャネイロの丘に建てられた大きなキリスト像、黒人奴隷が多く連れられたミナスジェライスに建てられた古い教会たち、国民の休日など、キリスト教がいかにブラジルにおいて重要であることは一目瞭然である。
ブラジル人サッカー選手が十字架を身に付けたり、勝利インタビューで「イエスキリストに感謝する」とコメントをするのを見たことがある人もいるだろう。(但し2018年以降ブラジルサッカー連盟はピッチでの宗教的な表現を制限している)

しかし、生活の多様化や都市集中と共にカトリック系の信者は2019年に51パーセントまで下がっている。
一方で、年々増加しているのが福音派のキリスト教信者だ。2019年の福音派の信者は国民の31パーセントとなっており、ブラジルの調査団体Datafolhaによると2032年には福音派の信者がカトリック信者の割合を超えるだろうと予測している。
この福音派の拡大はブラジルにおける政治にも関係しており、彼らが福音派と関係の深い現在のブラジル大統領ボルソナロ氏を支持する傾向があったという調査は興味深い。
また福音派は各教会ごとに特色が異なり、アルコール飲酒や婚前交渉、LGBTなどに強い制限をかけている所もある。

このように、カトリックの減少、福音派の増加と同時に、Ateuと呼ばれる無神論者も増えている。
私の周りの友人は、幼い頃に両親に連れられ教会に通ったり、中には洗礼をうけたが今はミサや礼拝に行っていないという人が多い。
大人になってからキリスト教以外の宗教(カンドンブレと呼ばれるアフリカにルーツをもつ宗教や、仏教など)に改宗する人もいる。そういった人たちはクリスマスに若干冷めた感情を抱いているが、両親が望むので帰省している場合が多い。
そのため現在のブラジルのクリスマスは、宗教的な意味よりも「家族の集まり」を目的とするイベントとなっていると言っても良いかもしれない。

クリスマスの過ごし方
殆どの会社がクリスマスの数日前から休暇に入り、そのまま年明けまで仕事に戻らない。
スーパーマーケットも24日は早く閉店し、25日は休業となる。サンパウロ市内のラッシュ時の渋滞はただでさえ酷いが、この時期と大晦日の前は最悪だ。それでも人々は家族で集まることに拘る。

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2017年、クリスマス前の金曜日の長距離バスターミナル、私が乗ったバスは2時間遅れで出発(2017/12/22 photo by Aika Shimada)

24日の夕方ごろから家族が集まり晩餐を行うのだが、主なメニューは七面鳥の丸焼きやサラダ、デザートなど。そしてイタリア発祥の長期保存ができるパン"パネトーネ"とレーズン入りのピラフも欠かせない。しかしこのレーズン入りピラフを毛嫌いしている子供は多い。

晩餐に並ぶ料理は手作りされることが殆どである。
多くて3世代、親戚中が集まるので、予めどの料理を担当するか事前に相談、一家族一品持ち寄れば十分だ。料理が苦手な人は飲み物などを用意する。テーブルに並べられた料理を食べながらワインを飲み、この1年の出来事を語り合う。福音派の一部の信者はこういったイベント時もアルコールを飲まないため、代わりに炭酸飲料やジュースが用意されるそうだ。

晩餐以外の大きなイベントはプレゼント交換で、クリスマスツリーの下に予め置いておいたプレゼントを日付が25日になった時に渡し合う。小さな子供がいる家庭では、誰かがサンタクロースに扮してプレゼントを配ることもある。
中身は日用品、お菓子、電化製品、衣料品などバラエティに富んでいて、特に決まったプレゼントはない。
そして一夜明けた25日、再度集って前夜に残った料理を中心に昼食をとる。
このように2日間かけてお祝いするのが主流なので、大家族の場合は海辺や郊外にある広い別荘などを貸し切る場合もある。

"クリスマスは一人で過ごすものではない"
私もカトリック系の家族のクリスマスパーティーに参加したことがあるのだが、その際は20人程が集まった。
親族だけではなく家族の中の誰かの恋人や、離婚している叔母さんの新しい交際相手とその娘とその恋人、家族と離れて暮らす独り身の友人とのその恋人など、血縁関係を超えて集まっていて、名前を覚えるのに一苦労した。ちなみにこの人数は決して多い方ではない。
これは"クリスマスは一人で過ごすものではない"という人懐っこいブラジル人の考え方からきているのかもしれない。
この時期は孤児院や老人ホームで過ごす人のために、プレゼントや特別な食事を用意するボランティアも多く集められる。
実際に、友人らも異国に暮らす私を気にかけてくれ、毎年多くの誘いをいただき、おかげでクリスマスを一人で過ごすことはない。しかしここ数年は同じような考え方をもつ親しい友人たちと集まる方が気が楽で、クリスマス料理を食べるのを楽しみにしている。

クリスマスは1年の中で最悪の日
この少々強制的とも言っても過言ではない「家族の集まり」を1年の中で最悪の日だという人もいる。
これは近年複雑化しているブラジル人の家庭環境に関係している。現在、統計では3人に1人が離婚をしていると言われており、この日は自分の父親もしくは母親の再婚相手や恋人と、その子供などが一気に集結する機会でもある。
もちろん家族の関係が良好な場合は問題ない。但し、そうでない場合、この盛大なパーティーを複雑な心境で過ごさないとならないのである。友人はクリスマスが近くなると離婚した両親のどちらの家族と過ごすのかと父親と母親から互いに問い詰められて憂鬱だと話している。

2020年パンデミックとクリスマス
そんなブラジルのクリスマスも、今年はコロナウイルスの影響で少しこじんまりとしたものとなりそうだ。
もう12月になるというのにスーパーマーケットにパネトーネの箱が山積みされていないし(例年は一角がパネトーネ売り場になる程だ)、おそらく七面鳥の仕入れも少ないだろう。
政府は10人以上の集まりを避け、移動を控えることを呼び掛けている。3世代以上を超えた集まりはハイリスク層に影響を及ぼす可能性も高い。
近所に住む家族だけで過ごしたり、同じマンションの住人と小さなパーティーを計画する人もいるようだ。
実際の所、教会の集まり、バーやナイトクラブ、ジムも結婚式も誕生日パーティーも再開している。現在、ブラジル全体のコロナ感染者数はまた増加しているが、一度緩和されたものを抑制するのは困難であろう。
この記事を書いている際に、サンパウロ州知事から「2021年1月25日からコロナウイルスワクチンの予防接種を開始する」と会見があった。きっとこのニュースに安堵している人がいるに違いない。
いずれにせよ、ブラジル人が静かにクリスマスを過ごすことはないだろう。

【今日の1曲】
ブラジルでは、日本で聴かれるようなインターナショナルなクリスマスソングはあまり聴かれない。
歌われるのは讃美歌が多い。『きよしこの夜』はブラジルでも歌われるが、もちろんポルトガル語である。ブラジルらしくバンドリン(ブラジルの伝統音楽ショーロで使われる楽器)とギターのアレンジ。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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