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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ブラジル、カーニヴァルなしのカーニヴァル休暇

ワクチンを製造する2つの研究所に絵を寄贈したアーティストEduardo Kobra (photo by Instagram @kobrastreetart)

カーニヴァルなしのカーニヴァル休暇が訪れるなんて、ブラジル人は想像をしたこともなかっただろう。
本来ならば今頃、カーニヴァルでエネルギーを消費し、ようやく1年が始まるという雰囲気だったはずだ。 カトリック信者が減少傾向にある現在でも、1年のうちの最大イベントはクリスマスとカーニヴァルなのである。

|カーニヴァルの楽しみ方は人それぞれ

カーニヴァルは復活祭から数えて46日前から復活祭前日の土曜日までの期間である四旬節に入る前に行われる。
日本でもよく紹介されるリオデジャネイロのカーニヴァルは金曜日から月曜日にかけてサンボドロモと呼ばれる会場で開催されるもので、この1ヶ月ほど前からCarnaval de ruaという、ブロコ(複数の打楽器とギター等のグループ)と共に歌いながら街を練り歩くパレードが毎週末現れ、実際はこういった道端で大騒ぎする方がメインだったりする。
また、カーニヴァルで演奏されるのはサンバだけではない。サンバがリオのカーニヴァルのシンボルとされる前に演奏されていたマルシャと呼ばれる音楽が今日でも親しまれ、ブラジル北東部のレシフェでは、フレーヴォと呼ばれる軽快な音楽が演奏されている。

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2014年、サンパウロのCarnaval de Rua の様子(photo by Aika Shimada)

同時に、カーニヴァル嫌いがいることも忘れてはならない。
私も道で行われるブロコに参加したが、100パーセント楽しむ気持ちでいかないと後悔するだろう。(ブロコにもよるが、大抵ビールやシャンパン、泡まみれになるし、見知らぬ人に肩を組まれたりする)そんなブロコが通り去った後の道はゴミだらけ、盗難被害や酔っぱらい同士の喧嘩が起こったり、更には道端でトイレを済ます女性も見た。
それも含めてカーニヴァルを好きになれない人たちは、この休暇を使って静かな所に旅行に出かけるのだ。
そして灰の水曜日の午後から仕事に戻る。
義務教育の学校はカーニヴァルが明けてから新学期が開始するため、友人は「ブラジルはカーニヴァルが明けてから新年が始まるんだよ」なんて冗談交じりに話す。

|2021年カーニヴァルは延期?それとも中止?

しかしながら、2021年のカーニヴァルはこれまでと同じようにはいかなかった。
リオのサンボドロモで行われるカーニヴァルはパンデミックにより7月に延期されていたが、1月下旬にリオ市長が本年は中止にすることを発表。サンボドロモで行われるカーニヴァルはテーマ決め、曲作り、練習や準備に半年以上の時間が必要である。練習のために各チームに大人数の参加者が集まらなければならない。市としても苦渋の決断だっただろう。
サンパウロでも市が中止を決断、もちろん道で行われるカーニヴァルも中止である。
実質カーニヴァルなしのカーニヴァル休暇となったが、一部の企業は休暇を取らずに通常通り勤務を続けた。

|サンパウロ州は夜間の外出制限が開始

残念ながら、ブラジル国内のコロナ感染者数と死亡者数はなかなか下がらないのが現状だ。
世界的にみて米国、インドに次ぐ感染者数から、日本のメディアで取り上げられることも多いが、ブラジルの人口や大きさを考えると一言では現状を言い表せない。どんな話題でも「ブラジルは」という文章を書くときは注意しなければならない。それだけブラジルは広い。

私が住んでいるサンパウロ州の状況も街によって異なるが、クリスマスから年始にかけての家族団欒や人の集まりによって感染者数が再び増え始めてから、いくつかの地方都市は政府による措置で最も警戒の強い赤フェーズまで後戻りしてしまった。赤フェーズでは、生活に必須なサービス以外は停止となる。(但し、デリバリーは営業可能)フェーズは公立病院のICU占有率や新規感染者数などから決められ、自治体ごとにロックダウンなど対策を取っている。
 また、2月26日から3月14日までの間、サンパウロ州内全域で23時から翌朝5時まで外出制限を設ける発表があり、政府は夜間の取り締まりを強化している。 このように南米最大の都市であるサンパウロも経済活動再開が見えない状態であるが、一部の学校に関しては人数制限などを用いて対面授業が開始されるようになった。
人々も少しずつコロナ疲れ、そしてこの状況に慣れてしまってきたのか、マスクをせずに歩く人も見かける。マスクの使用については自治体ごとに定められているようだが、元々マスクをする習慣がなく、更には昼間は40℃近い気温になる地では徹底されないのが現状だ。

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2月26日現在のサンパウロ州各地域のフェーズ(資料 https://www.saopaulo.sp.gov.br/planosp/

|サンパウロ州知事、ワクチン確保に過熱? #vacinajá

この状況から少しでも早く抜け出すための希望の一つである新型コロナウイルスワクチン接種が1月17日から開始された。
サンパウロ州では医療従事者、先住民、高齢者を優先的に、年齢ごとに期間を設けて接種を行う。混雑を回避するためにインターネット上で事前登録を行うことを推奨している。
2月27日からは80歳から84歳が対象となり、病院やドライブスルー式で接種を受けられるのだが、早朝から長蛇の列ができ、数時間待ちとなった。 ワクチンの料金はかからない。
余談だが、ブラジルの公立病院は無償で診察、一部の治療ができる。これは国籍、滞在ビザに関わらず適用されるため、私も体調を崩したときに公立病院に行き、点滴を打ち、処方箋を貰って薬局で薬を購入した。薬は有料だが、一般的に高額とされるHIV/AIDS治療薬の購入が困難な人に対しては無償提供を行っている。

中国製ワクチンに否定的だったボソナロ大統領に対し、サンパウロ州知事ドリア氏はワクチンの確保に国を問わず積極的だった。昨年末、クリスマスから年越しにかけてサンパウロ州に最も重い措置を取り、自身は妻とマイアミへ休暇に出かけた事で多くの市民から反感を買った州知事は、汚名返上かと思えるほどワクチンの確保に燃えていた。結果、現在サンパウロ州で主力になっている中国のシノバックが開発したコロナバックを確保。2月に入ってから、このワクチンが変異株にも対応していることも発表された。
(2021年3月追記 サンパウロ大学の研究により、ブラジルで発見された変異株に十分な抗体を形成しない可能性があると発表)

コロナバックは現在サンパウロ州立のブタンタン研究所で製造されている。今年で120年の歴史を誇るブタンタン研究所は、毒蛇などの有毒生物やその他の感染症に対するワクチンと血清の研究と製造を行っており、ブラジル国内にて人用のワクチンを製造しているのはこことリオデジャネイロにあるオズワルドクルス財団だけである。

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サンパウロ州政府のウェブサイトでワクチン接種の回数と人数を確認できる(キャプチャ https://www.saopaulo.sp.gov.br/


2月28日現在、サンパウロ州では一回目の接種を済ませた人が181万7143人、2回目の接種を済ませた人が51万5213人とされている。 全員がワクチンを接種するまでには時間がかかるが、大人しく待つしかないだろう。今後の製造状況によって、ワクチンを民間に販売する可能性もあるようだ。
接種が始まってから、ワクチンの盗難や空打ち、転売などが日本のニュースで取り上げられているが、残念ながらブラジルでこういったことはよくあることだ。南米では自分の行動に責任を持ち、用心深く生きなければならない。

|ワクチンは希望、世界的壁画家が描いたオマージュ

我々アーティストはというと、相変わらずオンラインにてライヴやレッスンをせざるを得ない状況だが、文化芸術事業者への緊急支援やプロジェクトの補助金を与えるAldir Blanc法を用いて新たな試みも始まっている。
芸術は、楽しい時だけでなく、辛い時にも人々を支えるパワーの源だ。
そんな中、今や世界的に有名となった壁画家Eduardo Kobraが、ワクチン製造を行うサンパウロとリオの研究所にオマージュとして絵を送った。(冒頭写真)元々はワクチンの開発への希望の意を込めて昨年から手掛けていたものだが、それを現実化した2つの研究所に寄贈することに決めたそうだ。ブラジルはサンパウロやリオを中心にグラフィックアートが注目されているのだが、彼もその一人で、サンパウロではKobraの作品を観ることができるだろう。

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Kobraが手掛けた世界最大と言われる5.742平方メートルの壁画、サンパウロ州のカステロブランコから見れる(Photo by Aika Shimada)

パンデミックに突入してもうすぐ1年。
ブラジルは広く、自治体ごとに措置が定められているため、一人の友人は夜レストランでの生演奏の仕事に復帰、別の街に住む友人はロックダウンで家に籠り切り、もう一人は何事もなかったかのように海が綺麗な島へ旅行している。
全体の数字を元にしたデータや一部のニュースだけでは決して現状を伝えきれないし、理解するのも難しいであろう。
コロナウイルスにニュースを読むのが辛くなってきた今、こういった微笑ましいニュースをもっと取り上げてほしいと感じる。


【今日の1曲】
道で行われるカーニヴァル定番のマルシャ。リオデジャネイロ市の賛歌でもある。仮装し、これを熱唱しながら街を練り歩けば、悲しいことも一気に忘れてしまうだろう。来年のカーニヴァルは仲間と肩を組みながらこの歌を歌えることを信じたい。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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