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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

#国際女性デー 女性音楽家の挑戦と課題

2021年3月8日国際女性デーに放送されたライヴディスカッション 『Mulheres em Bandas: percursos, lutas, desafios e conquistas』 (Youtubeよりキャプチャ)

毎年3月8日が国際女性デーということはご存じだろうか。
私は女性でありながら、それを知ったのはここ数年の話である。
今でこそ言えるが、それだけ「女性」であることに対して何か考えてみようと思ったことがなかったのかもしれない。

国際女性デーが国際連合によって定められたのは1975年である。
女性によって参政権や労働法についてのデモが起こったことが始まりとなったのだが、舞台がアメリカ合衆国やヨーロッパであることからか、日本では馴染みのないイベントとなっているかもしれない。
今の時代からは考えられないかもしれないが、日本では1890年に初の国民選挙が行われた際、女性には参政権がなかった(投票だけでなく立候補も不可)。 その55年後、ようやく女性の参政権が認められたのだが、今から76年前の話であって、長い歴史でみたら最近のことである。 私は日本で義務教育を受けたのに、女性の人権や歴史について深く学んだ覚えがないから不思議だ。

|実は女性差別だということに気づいていない

ブラジルでは国際女性デーが日本よりも比較的大きく取り上げられている。
様々な人種が交わるブラジルでは、常日頃から人権に対して関心が高い。
私も音楽院に入学してから、複数の女性音楽家グループのディスカッションに同席した。(自ら参加したのではなく、友人に引っ張られて行くことが殆どだったが)
女性だけの集まりでは、日頃の悩みや不満を言い合う。中には、とある有名な先生からセクシャルハラスメントに遭っているという話も出てきて驚いた。フェミニズムの理解を高めるための資料や誌の朗読なども行われる。
毎回明確な解決策が出ないため、集まることの重要性を感じられずに少しずつうんざりしていた。

しかし、ある日友人と買い物をしている際に起こった出来事が私の考え方を大きく変えた。
友人はキッチンの流し台の蛇口をシャワー状にするアダプターを手に取って、裏に書かれている説明書きを読んだ。
「これを使うと食器を洗う時に便利です。主婦の仕事が楽になりますよ!」
これに何の問題があるのか、さっぱりわからなかったが、続けて
「主婦だって!食器を洗うのは女の仕事って決めつけてる。ブラジルのこういう所が遅れてるのよ!」 と言い放った。
そして「ブラジル以前に、こういうことに全く疑問を抱かないあなたも遅れている」と言われたような気がして、少しずつ自分の身の回りで起こってきたことを思い出し始めた。
女性であることを真剣に考え始めたのはこの出来事がきっかけだった。
それまで気付かなかったこと、もしかしたら気付かないようにしていたことを話せるようになったのも、実はここ数年の話である。

先日、カンピーナス州立大学の博士課程にて音楽教育を研究する友人のFernandinhoから、国際女性デーに因んで「バンドにおける女性の挑戦」についてのライヴディスカッションに参加しないかと誘われた。一度は断ったものの、自分が思っていることを伝える良い機会になるのではと思い参加することにした。(冒頭写真)

|女性音楽家のバンドへの参加

ブラジルでは、現在も公立学校の義務教育に音楽の授業はない。
そういった環境にいる子供たちが幼少期から青年期に音楽に触れあえるのは、家族に音楽家がいる場合か、教会での演奏、街のバンドへの参加だろう。 この街のバンドというのは、Banda de Coretoなどと呼ばれる主に街のイベントなどで活躍する青年向けのバンドである。 基本的に行進や屋外での演奏が多く、自然と男性的なイメージが勝手につけられたのもあるかもしれないが、未だに女性が参加することに偏見をもつ人もいるそうだ。
言われてみれば、ブラジルやペルーなどの伝統的な音楽文化において、男性は楽器の演奏、女性はダンスをする習慣がある。
バイーア連邦大学にてバンドにおける女性の歴史を研究したMarcos博士は、あるバンドは女性の参加を許可するまでに50年もの歳月が必要だったと話す。

女性のバンド参加が認められた後も、楽器における性別のイメージで苦しむ女性も多かった。
ブラジルでは珍しい女性だけのバンドでトロンボーンを始めたElizete(指揮者)は、地元を離れて晴れて音楽大学に進学した際に"女性なのにトロンボーンを吹いている"と偏見に悩まされ、大学で勉強することを断念したそうだ。
こういった楽器の大きさや音色による勝手なイメージから起こる差別によって悩まされるのは女性だけではない。吹奏楽器の中で比較的軽く、高音が鳴るフルートを吹く男性も似たような経験をすることが多いとJuliana(クラリネット奏者/研究者)は話す。
私が卒業した音楽院でも60年以上ある歴史の中で、2015年にようやく初の女性テューバ奏者、続いて2017年ポピュラー科の女性ドラム奏者が卒業した(但しポピュラー科は創立32年)。
入学しても、卒業までたどり着けない学生が多い。それだけ女性音楽家は偏見や環境に悩まされてきたのだ。

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音楽院のコンサート。管楽器には女性が少なく、バンドに私だけということが殆どだった。(Photo by Iago Antunes/Conservatori de Tatui)

|女性音楽家に求められるのは容姿なのか?

サンパウロに移住する前、私は東京でフリーランスの音楽家として働いていた。 その時、いくつかの事務所に「本番はドレスで来てください。化粧もしてください。」と言われたことを思い出した。
当たり前のようにしていたが、実は心の底で疑問に思っていたのは確かだ。
舞台で演奏する際に、美しくありたいという気持ちは自らの意志であるべきで、それがパンツスタイルであることに何の問題があるのだろうか?

どこの国でも、音楽家として生きるのは簡単ではない。
音楽大学を卒業しても、仕事ではこれまで勉強したこととは別の音楽を演奏したり、好みでない曲を演奏することだってある。着たくない衣装を支給されることもある。
いつの間に商業的に作られた「女性音楽家」のイメージに縛られていることに多くの人が気付かず、声をあげられずにいる。
もちろん仕事を失うことが怖いのもあるだろうが、声をあげるチャンスがないことも問題だ。
この時ようやく音楽院の友人たちが女性同士の集まりを必要としていたのがわかった。

独り歩きした女性音楽家のイメージによって受けるセクシャルハラスメントは、ソーシャルメディアが発展した今、悪化したと思われる。 パンデミックになってから、Youtuberとして楽器の演奏やアドバイスを始めたAriane(フルート奏者)は「ソーシャルメディアでこの仕事を始める前に、自分の見せ方と注意点についてよく勉強した。」と話す。
多くの視聴者が女性の容姿や振る舞いを重視していることがわかるだろう。(もちろん男性にも同じことが言えるが、女性よりも比較的少ない。)
更にはソーシャルメディア上のコメント欄でプライベートな質問をされたり、食事の誘い等のダイレクトメッセージが届くことも少なくはない。

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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