コラム

医療逼迫?政府与党は直ちにコロナ禍の医療緊急事態を改善せよ

2020年12月30日(水)16時06分

緊急事態宣言には慎重な姿勢を見せた菅義偉首相(12月25日) Nicolas Datiche/REUTERS

<累計死者数がヨーロッパの1/40に抑えられている日本で、医療崩壊の危機が叫ばれ続けるのはなぜか>

医療崩壊の危機を連日、日本医師会、東京医師会の会長や都道府県知事が訴えている。但し、多くの国民にはテレビの中の出来事で実感がわかない。全国に病院は8,203機関もあり、人口1,000人あたりの病床数は13.2と世界一だ。世界一の病床数を誇る日本の医療が何故このように脆弱なのか?疑問に思う人も多い。

それはヨーロッパでは病院の60%〜90%が公立であるのに対して日本の病院の8割が民間経営であることに起因するところが大きい。コロナ患者受入を拒否することが経営者として合理的判断だからだ。コロナ患者用に一般病床を空けると稼働率は下がる、患者対応に多くの看護師が必要となる、医療従事者が心無い差別の目線に晒され退職者が増える、更には院内感染を恐れた高齢者の受診が減る──。

多少の協力金をもらえても受け入れたくないのが民間病院経営者の視点だ。

その結果、コロナ対応する医療機関は限られる。感染症指定医療機関はわずか693機関、病床数は5809床しかない。日本の全病院の8%程度、病床数として0.4%だけだ。東京都でも650ある病院の中心的に受け入れるのは100病院程度だ。

医療法でも医師法でも、都道府県知事が医療機関に指示・命令できないため、対応は自治体が設置者の都道府県立病院中心。国立大学ですら民営化した独立行政法人だから強制はできない。結果、民間病院の受入は1割に留まる。

感染症指定医療機関の指定状況(平成31年4月1日現在)
病床逼迫、医療のもろさ露呈 民間病院の受け入れ1割

医療崩壊はごく一部の病院だけ

「医療崩壊が起きる」というのも正確に表現すると、「せっかくコロナに対応してくれている基幹病院で医療崩壊が起きる」というものだ。基幹病院が崩壊状態になると、高度な手術や救命医療ができなくなるので、国民の救える命が救えなくなるというのも事実ではある。

国民に行動自粛を促すしかなく、それには恐怖を煽るしかないから、一部の病院の医療現場の映像や医師や従事者のコメントを報道で大量に流布させる。マスコミも視聴率が取れるから流す。

今ワイドショーを見ているのは、元々気をつけて引きこもってる高齢者中心。報道による自粛行動の真水の拡大効果なし。高齢者はより病院に行くのが怖くなり検診や定期医療が必要な人も自宅に引きこもる。ワイドショーを見ない若者はマスクだけして街に繰り出していく。

報道によると実は例年より感染防止を徹底しているため、インフルエンザは例年の70%以上患者数が減っている。外出自粛などから交通事故も減少し7%減っている。1〜10月で、対前年1万4千人以上死者数はむしろ減っている。

国内の死亡1万4000人減 1~10月、コロナ対策影響か

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story