コラム

中国の経済支援で借金漬けに──新植民地パキスタンの悲劇

2018年11月16日(金)15時30分

文化大革命風の外交舞台は上海にも設けられた。11月5〜10日、かつて西欧列強の租界があったこの港湾都市で中国初の輸入博覧会を開催。政府の宣伝によると、172の国・地域から約3600もの企業が展示ブースを設け、盛況を呈した。習は元歌手の夫人彭麗媛(ポン・リーユアン)夫人を連れて各国首脳と記念撮影を行い、共産党機関紙・人民日報の一面を飾った。

こちらも毛時代の再来を彷彿させた。「あまねく世界からの友人たち」を集めた毛にも、かつて上海映画界のスターだった江青夫人が寄り添っていた。「友人」といっても、第三世界の指導者か、アフリカのゲリラのボスだけだったが。

「輸出博」から「輸入博」へ

同じくカーンと共に習夫妻と写真に納まったのは、経済支援の継続を求めるラオスと、したたかな八方美人外交を行うベトナムの首相ぐらい。「西欧列強」首脳が不在の毛時代が再来したかのようだった。

借金漬けの国、パキスタンとラオスの首脳らを上海に招いて、輸入博を開催したことには、別の狙いも隠されている。文革中に共産主義思想を輸出して、冷戦下で第三世界を社会主義陣営に取り込んだ中国は、改革開放後は輸出博を度々開催。安価なメイド・イン・チャイナ製品を世界市場にばらまき、輸出で儲けたカネで途上国の政府を支援し、借金漬けにしてきた。

今回は輸入博を開いて、対米貿易黒字解消をアピールし、対中制裁の緩和を狙う。同時に中国の新植民地となりつつある国々を対米共同戦線に立たせて、米中新冷戦の本格化に備えているのだ。

<本誌2018年11月20日号掲載>


※11月20日号(11月13日売り)は「ここまで来た AI医療」特集。長い待ち時間や誤診、莫大なコストといった、病院や診療に付きまとう問題を飛躍的に解消する「切り札」として人工知能に注目が集まっている。患者を救い、医療費は激減。医療の未来はもうここまで来ている。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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