Newsweek

楊海英

ユーラシアウォッチ

新型肺炎で泣き面の中国を今度はバッタが襲う

2020年03月24日(火)20時00分
    新型肺炎で泣き面の中国を今度はバッタが襲う

    アフリカで大発生したサバクトビバッタは中国を襲うのか(ケニア) BAZ RATNER-REUTERS

    <新型コロナウイルス制圧を宣言した中国だが、間もなく到来するバッタの大群「蝗害(こうがい)」への備えはあるのか>

    武漢発の新型肺炎を基本的に制圧した、と宣言した中国に新しい脅威が襲い掛かろうとしている。バッタの襲来だ。

    中国の古い文献では「蝗害(こうがい)」と呼び、「黄害」すなわち黄河の氾濫による被害と同じくらいの脅威だ、と歴史的に認識されてきた。黄河の氾濫は歴代王朝の交代を促したから、蝗害も無視できない。中国は今やまさに「泣き面にバッタ」という局面に立たされている。

    今回大量発生したサバクトビバッタはコロナウイルスとほぼ同時に増え始め、最初はアフリカ東部のケニアやエチオピアとその周辺で群れを成した。その総数は3600億~4000億匹と推算されているが、人間の知力で数えること自体が不可能に近い。

    彼らは40×60キロの広さで覆うような陣形をつくり、ゆっくりではあるが、いかなる力にも阻止されない勢いで東方へと突き進んだ。「出アフリカ」を果たし、2月にはパキスタンとインド北西部に到達。マケドニアを出発してインダス河流域に到達したアレクサンダー大王に負けないくらいの恐怖をもたらした。パキスタン政府は軍用機で農薬を散布するなどして対応に出たが、一敗地にまみれた。

    パキスタンとインドを「征服」したバッタの大群は目下、天山山脈に沿って東進し続け、シルクロードを「バッタロード」に塗り替えつつ、間もなく中国国境を侵犯する勢いを見せている。新型ウイルスを相手に「人民の『戦疫』」に勝利した習近平(シー・チンピン)政権は、次の「バッタ戦役」に備えることができるか否かが問われそうだ。

    実は筆者は1992年の晩春から初夏にかけて、パミール高原の東部・中国新疆ウイグル自治区の北西部で「蝗害」を体験している。日本のトヨタ・ランドクルーザーに乗って草原を走っていたとき、車外からまるで砂利道を疾駆しているような音が耳に入ってくる。それは砂利ではなく、バッタをひいた音だ。それが一日中、延々と続くので、好奇心はやがて恐怖に変わってくる。

    バッタは最初に新芽を出したばかりの草原を占拠し、居座る。若草を食い尽くされた家畜は痩せ細って死に、遊牧民のモンゴル人やカザフ人は途方に暮れていた。やがて作物が成長するにつれて、バッタは草原部から畑や水田地域に移っていく。すると、今度はオアシスの農耕民が被害を受ける。当の中国政府は「蝗害」を天災と見なし、何一つ有効な策を講じていなかった。いや、そもそも古代から有効策は発見されていなかったのだが。

    プロフィール

    プロフィール

    楊海英

    (Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

    本誌紹介

    特集:ドイツ妄信の罠

    本誌 最新号

    特集:ドイツ妄信の罠

    良くも悪くも日本人が特別視する国家・ドイツ──歴史問題や政治、経済で本当に学ぶべき点は

    2020年11月 3日号  10/27発売

    人気ランキング

    • 1

      「なぜ欲しいのかワケがわからない」文在寅の原潜計画にアメリカから疑念

    • 2

      韓国の高齢者貧困率が日本を超える理由

    • 3

      ドイツは日本の「戦友」か「戦争反省の見本」か ドイツ人はどう見ている?

    • 4

      日米豪印「クアッド」に走る亀裂──多国間連携で「反…

    • 5

      菅首相は安倍首相に続き自滅か

    • 6

      「ドイツは謝罪したから和解できた」という日本人の…

    • 7

      豪グレートバリアリーフで高さ500メートルの巨大なサ…

    • 8

      悪気はないのに黒人差別となじられた寿司店オーナー…

    • 9

      「中国共産党は略奪者」 米国務長官ポンペオ、一帯一路…

    • 10

      トランプのコロナ感染に歓喜する中国人の本音

    • 1

      世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

    • 2

      「ドイツは謝罪したから和解できた」という日本人の勘違い

    • 3

      菅首相は安倍首相に続き自滅か

    • 4

      女性との握手拒否で帰化認定が無効になった ドイツ

    • 5

      「なぜ欲しいのかワケがわからない」文在寅の原潜計…

    • 6

      黒人プラスサイズのヌードを「ポルノ」としてインス…

    • 7

      毎年ネットで「三峡ダム決壊!」がバズる理由

    • 8

      決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性

    • 9

      ボイジャー2号が太陽系外の星間物質の電子密度の上昇…

    • 10

      韓国の高齢者貧困率が日本を超える理由

    • 1

      世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

    • 2

      スリランカが日本支援のライトレール計画を中止したのは......

    • 3

      日本学術会議は最後に大きな仕事をした

    • 4

      金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑

    • 5

      習近平、中国海兵隊に号令「戦争に備えよ」

    • 6

      その数333基、世界一のダム輸出国・中国の「無責任」

    • 7

      注意喚起、 猛毒を持つふさふさの毛虫が米バージニア…

    • 8

      決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性

    • 9

      「ドイツは謝罪したから和解できた」という日本人の…

    • 10

      中国のネットから消された「千人計画」と日本学術会…

    もっと見る

    Picture Power

    レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

    【写真特集】分断の街ニューヨークの分断された視点