コラム

死と隣り合わせの「暴走ドリフト」がサウジで大流行

2016年05月25日(水)17時09分

Tahseen Ali -YouTube

<道路が整備されていてスピードが出しやすく、他に娯楽が少ない湾岸産油国では、道路上での危険行為が昔から社会問題になっていたが、最近は死と隣り合わせの「ドリフト」が流行し、動画も多く出回っている>

 最近はほとんど使わなくなってしまったが、研究会や講演会などでサウジアラビアの話をするとき、つかみとして鉄板ネタがあった。10年近くまえにYouTubeに投稿されたSaudi Road Skatingという短い動画である(たとえば、以下の動画)。内容は、サンダル履きの若者たちが道路を疾走する車のドアを開け、そこにつかまりながら、道路上をスケートですべるように走っていくというものだ。若者たちはその間、体をのけぞらせたりして、かなりアクロバティックなこともやっている。文章で説明してもわかりにくいので、くわしくはビデオをみてほしい。サウジアラビアというと、どうしてもイスラームの厳しい戒律などのイメージがつきまとうが、そういうものとはまったく異質のサウジアラビアがここにはあった。

 サウジアラビアを含む湾岸諸国では、こうした道路上での危険行為が昔から社会問題になっている。これは、湾岸産油国が金持ちで、若者でも比較的楽に車が買えるのと、道路が整備されていて、スピードが出しやすいということ、また他に娯楽が少ないことが大きな要因となっている。

 しかし、メルセデスやフェラーリに乗った暴走族という湾岸らしさは、ここのところ変化してきているようにもみえる。もちろん、そうした金持ち暴走族はいぜんとして存在しているし(たとえば、この動画を参照)、砂漠を走る無害なオフロード愛好者も少なくないが、とくにここ十年ほどのあいだに注目を集めるようになってきたのは、日本でいうところの「ドリフト」である。

【参考記事】サウジ、IS、イランに共通する「宗教警察」の話

 ただし、日本や日本での人気が飛び火した欧米のドリフトと大きく違う点がある。たとえば、使用する車。日本や欧米では、通常後輪駆動車が用いられ、ドリフト用にさまざまな改造が施されるのがふつうだし、それが自慢にもなる。ところが、サウジではふつうのセダンやピックアップが無改造のまま使われることが多い。しかも、車が壊れてもいいようにレンタカーを用いたり、あるいはドリフトのためだけに車を盗んだりすることも少なくないとされる。

自動小銃を乱射しながらや、交通量の多い道路でも

 実際、YouTube等で彼らのドリフト動画を見てみると、彼らの走りっぷりがいかにむちゃくちゃか一目でわかる。なかには自動小銃を乱射しながらドリフト走行とか、猛スピードでドリフトする車で箱乗りなどという強者もいる。日本や欧米のドリフトにももちろん命知らずは数知れずだが、のちにスポーツとして確立していくように、これらの地域ではむしろ車を自在に操る技術のほうを自慢する側面が強かったように思う。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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