コラム

悲劇続きで沈滞ムードのイギリスに残る良心

2017年07月05日(水)17時00分

でも僕は何とか、「中心部分がまだしっかりしている」ことにいくぶん慰めを見出している。グレンフェルタワーの大火災の後、僕は2011年のときのような暴動が起こる可能性がかなり高いと感じていた。ある意味、僕が考えた「法則」はシンプルだった。2011年にロンドンなどイギリス各地で起こった暴動のきっかけになったのは、少なくとも犯罪集団と何らかの関係があり、当時違法な武器を運搬していたとされる1人の黒人男性マーク・ダガンが警察に射殺されたことだった。

2017年の今回の場合は、過失致死傷か、少なくとも重過失だと思われるような行為が原因で、大勢の罪なき人々が自宅に居ながらにして焼け死んだ。

2011年の当時、イギリスの根底に漂っていた社会的不公正の感覚は、いまだ解決されないまま――むしろある意味、悪化している。

にもかかわらず、今回は群衆が違法行為に走るようなことは起きていない。一般市民の相当な怒りは何度も表面化しているが、それが大爆発に至るような事態には一度もなっていない。むしろ目立ったのは、ボランティア精神や寄付行為など、人々の善意のほうだ。

【参考記事】トランプ、抗議デモ避けてイギリスに「密入国」?

フィンズベリー・パークのモスクの事件では、イスラム教徒を殺害しようとしたとされる容疑者は、その犠牲者になるかもしれなかった市民たちによって取り押さえられた。これは、自分を殺そうとした男を拘束するうえで、かなりの自制を示している。

その週末、僕の家の近所の広場で大音量の音楽と何やらアナウンスが始まったので、僕は最初、イラっとした。でも「長いものには巻かれろ」的な精神で、何が起こっているのか見てみようと足を運んでみた。するとそれは、ジョー・コックスの一周忌記念行事だった。彼女は僕の住む地域とは個人的なつながりはなかったが、その日はイギリス中が、死ななくてよかったはずの彼女の死を思い返していた。

僕はあまり楽観主義者ではない。今のイギリスで起こっていることを見て、これから全てがいい方向に向かうだろうとも思わない。でも同時に、絶望しない方法だってちゃんと見つけることができている。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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