コラム

【英ブレグジット】メイ首相が辞任しても離脱の難題は変わらず 新首相に求められることは

2019年05月27日(月)13時05分

この男も波乱の種に。欧州議会選で英二大政党をしり目に第一党になったとみられる新党「ブレグジット党」のポピュリスト政治家ナイジェル・ファラージ(5月26日)Hannah McKay-REUTERS

<メイ首相が辞任した後も、国内は離脱派と残留派に分かれて妥協の道は見えない。EUも再交渉には応じないと言っている。イギリスはどこへ漂流していくのか>

「いつ、辞めるか」という噂が絶えなかった、メイ英首相。5月24日、とうとうその日がやってきた。

ようやく、官邸前で辞任表明をしたのである。

参考:BBCニュース:メイ英首相、6月7日に与党党首辞任へ 次期首相は7月末までに就任

このところ、メイ首相は「弱り目に祟り目」状況になっていた。

5月上旬の地方選挙では、保守党は1300議席以上を失い、23日の欧州議会選挙でも大敗の見込みが出ていた。

英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)に向けて、EUと英政府が決めた離脱協定案は、下院で3回も否決された。21日、首相は野党の支持取り付けを狙って、国民投票の再実施を含む修正案を発表。これが与野党議員の間で不評となり、辞任を求める声が一層高まった。

22日、今後の下院議事予定を伝える役目を持つ、アンドレア・レッドソン院内総務が「修正案を支持できない」として、辞任。これがメイ首相の辞任劇の引き金を引いた格好となった。

24日朝、保守党平議員で構成される「1922年委員会」の代表から、「辞任の日を特定してほしい」と迫られ、午前10時過ぎ、首相は6月7日に保守党・党首を辞任すると表明した。党首選の後、新・党首兼首相は7月末までには決まる見込みだ。

「よく頑張った」という声が保守党内から出る中、「自分で自分の墓を掘った」という人もいる。

新たな党首を決定するレースが始まりつつある。

次の党首は誰に?

すでに事実上立候補し、最も首相就任の確率が高いと言われているのが、元外相、元ロンドン市長のボリス・ジョンソンだ。離脱を決めた国民投票(2016年)では、離脱運動を率先した人物。党内でもかなり人気があり、「選挙で勝つなら、ボリス」と考える人が多い。

参考:プレジデント・オンライン(2016年8月16日)
世界で最も注目される英外相ボリス・ジョンソンの履歴書

ほかには、元離脱担当大臣のドミニク・ラーブ。政府が決めた離脱協定案のドラフトに賛同しないという理由で、大臣職を辞任した。

環境大臣マイケル・ゴーブも離脱派で、前党首選に立候補した人物。以前はジョンソンと仲が良かったが、ジョンソンが党首選に立候補する直前に自分自身が立候補し、ジョンソン自身は立候補をあきらめた。「裏切者」として知られている。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story