コラム

中東の混乱、真の問題は「宗教」ではない...サイバー戦争を軸に「地政学」の全貌を読み解く

2023年11月04日(土)18時51分
イスラエルによる空爆を受けたガザ北部の難民キャンプ

イスラエルによる空爆を受けたガザ北部の難民キャンプ(10月31日) Anas al-Shareef-Reuters

<中東地域では「世界の地政学的な傾向」がどこよりも先に見られる傾向があり、サイバー領域においても世界に先駆けた動きが出ている>

2023年10月7日、イスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を行った。それを受けて、イスラエル側も報復に乗り出しており、中東和平問題が再び混乱している。

表面的に見ると、中東地域のイメージは宗教的な狂信性が情勢を左右しているイメージがある。しかし、中東地域の混乱は、実際には宗教的事柄よりも純粋な地政学の問題が大きくからんでいる。中東地域は地政学の温床とも言え、さらに世界の地政学的な傾向が他よりも先に見られる傾向がある。

そして中東地域のデジタル化が進むにつれて、中東諸国は、敵対する勢力によって経済的または軍事的な力を削ぐためのサイバー攻撃にさらされている。攻撃者たちはそんな目的でシステムの脆弱性を突こうと狙っている。

中東のサイバー領域は、サイバー情報収集やサイバー戦争、そして紛争のハイブリッド化(現実と仮想空間の攻撃の統合)において先駆けとなる動きを見せていると言っていい。しかも日本も決して対岸の火事ではない。そこで今回は、イスラエルとパレスチナの紛争を受けて、中東地域におけるサイバー紛争の実態を見ていきたい。

中東地域を動かす最大の対立軸のひとつは、サウジアラビアとイランのライバル関係にある。サウジアラビアはイスラム教スンニ派の大国で、イランはイスラム教シーア派の国家だ。

サウジアラビアとイランはどちらも、各地域で民兵組織を含むさまざまな勢力を支援し、現実の争いのみならず、サイバー攻撃によって代理戦争とも言える紛争を繰り広げている。サイバー工作でどちらも地域での影響力を増強しようとしている。

イスラエルは軍事攻撃の代わりにイランをサイバー攻撃

さらにイランの場合は、特にイスラエルとの対立が顕著になっている。イスラエルはイランの核開発問題などで、イランに対して予防的な軍事攻撃も辞さない姿勢でいるが、それをアメリカが抑えている。代わりに、イスラエルはアメリカとともに、イランのナタンツ核燃料施設をサイバー攻撃して、燃料工場を破壊する作戦に参加した。

中東各国は、サイバー領域での相互接続と、ハイテクな電子インフラが劇的に変化したことによって、サイバー分野をそれぞれが国家戦略と軍事戦略に密接に統合しつつある。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story