コラム

ハンブルクG20サミットは失敗だったのか

2017年07月26日(水)17時00分

日EU経済連携協定大枠合意の意味

G20前に渡欧した安倍総理は7月6日の日EU首脳協議でEUとの経済連携協定(EPA)と戦略的パートナーシップ協定(SPA)の大枠合意を確認した。4年前に交渉が開始されてからさまざまな困難にぶつかり、最終的な局面でも農産品などで難しい局面が続いたが、アメリカが合意済みのTPPに背を向け、保護主義的な姿勢を強める中で、G20に間に合わせることができ、世界に向けて自由貿易を推進することのメッセージを日本とEUが出せたことの意義は大きい。EPAは単にモノの関税を下げるだけの自由貿易協定であるのみならず、モノ以外の市場アクセスも自由化し、貿易を取り巻く制度・ルールなども包括的に含めている質の高い協定である。

さらに政治面でのSPAは、日EUが平和と安定のために宇宙、海洋、サイバー、環境、エネルギー、保健、テロなど多様な課題での恒常的な協力の促進と対話を制度化するものである。

中国をはじめとする諸国の台頭によって日本の比重は低下しているものの、共通の価値を基盤として深いレベルでの協力が単なるお題目でなく可能であることを示すことに成功したEPAとSPAの締結は、G20のみならず世界へのメッセージとして十分意味のあるものであったと評価することができよう。

日EU首脳協議がG20に会わせて開催されたように、国際政治の場では政治的スケジュールにも意味がある。G20やG7があることによって、そこにいたる日程がさまざまに拘束されてくる。そしてそのことが、何もなければなかなか動きにくい問題で妥協を可能にしたりもするのである。この意味でも国際制度の意義を再確認してみる必要があろう。

プロフィール

森井裕一

東京大学大学院総合文化研究科教授。群馬県生まれ。琉球大学講師、筑波大学講師などを経て2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授、2007年准教授。2015年から教授。専門はドイツ政治、EUの政治、国際政治学。主著に、『現代ドイツの外交と政治』(信山社、2008年)、『ドイツの歴史を知るための50章』(編著、明石書店、2016年)『ヨーロッパの政治経済・入門』(編著、有斐閣、2012年)『地域統合とグローバル秩序-ヨーロッパと日本・アジア』(編著、信山社、2010年)など。

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