コラム

「うんこ丸太」の歌を聞けなかったカタルーニャ独立派たち

2018年01月16日(火)12時17分

彼の政党は「プッチダモンが再選された以上、彼以外の首相を就任させることは、スペイン政府によるカタルーニャ政府解体と自治剥奪を認めることになる」として、プッチダモンの代理を首相に据えることはないとしている。選挙前からの公約通り、解体された(プッチダモン首相をリーダーとした)「正当なカタルーニャ政府」を復権させることにより、スペイン政府の自治権剥奪による州政府解体が民意に反したものだったことを示すということだ。

独立派第2党の「カタルーニャ共和主義左翼(ERC)」は、公式にはプッチダモン首相就任を認めているものの、獄中の党首ウリオル・ジュンケラスが釈放され、プッチダモンがカタルーニャに帰還できない場合には、ジュンケラスを首相に据えたいという党員の声があった。

しかし1月5日、スペイン最高裁はジュンケラスの投獄を続けることを決定し、9日にはブリュッセルでプッチダモンとERCのナンバー2が、プッチダモンを首相指名することに合意した。

現在のところ、プッチダモンがカタルーニャに不在のまま首相に就任するが、カタルーニャに帰還できず、事実上、亡命政府を樹立することになる可能性が高まっている。

産休中や入院中などは就任式に欠席しても就任は可能という法律があるので、それが「亡命中」に適用できるのか、カタルーニャ議会の法律を緊急制定し「遠隔地就任」(例えばビデオ会議のように参加するなど)を可能にするのか、などが議論されている。

もちろんスペイン政府は、「そんな馬鹿げた就任ができるわけがない」「ありとあらゆる手を使って遠隔地就任を阻止する」と息を巻く。

スペイン政府により「遠隔地就任」が違法とされ、プッチダモンの首相就任が阻止された場合、いずれかの独立派政党から党首の代理を首相にすることになると想定されるが、これは独立派第1党「カタルーニャのための団結」が言う「スペイン政府によるカタルーニャ政府解体を認める」形になる。そのため独立派は抵抗を続け、首相選出が長引くことになり、最悪の場合、再選挙へともつれ込む可能性もある。

いずれにせよ、まずは1月17日までに議会を構成し、その後10日以内に首相を選出しなければならない。

ジュンケラスの投獄継続が決定された後、彼のツイッターアカウントからツイートが流れた。

「これからやって来る日々、皆さんは気を強く持ち、そして団結し続けてください。憤慨を勇気と忍耐に変えてください。怒りを愛に変えてください。常に他人のことを考えてください。そして、私たちがもう一度やらなければならないことを考えてください。私はあきらめません。だからあなたたちもあきらめないでください。皆さんの応援に感謝しています。皆さんを愛しています」

敬虔なクリスチャンで知られるジュンケラスだが、今年のクリスマスは、家族と共に過ごすことができるのだろうか。カタルーニャで温かいアスクデーリィアを楽しみ、子供たちが「うんこ丸太」ティオに股がり歌う風景を眺めることができるのだろうか。

今年中に、カタルーニャから黄色のリボンが消えるだろうか。

morimoto180116-3.jpg

サン・アステバ・ダ・パラウトゥルデラ村の並木通りの木、1本1本に「政治犯」釈放を求める黄色いテープが巻かれている Photograph by Toru Morimoto





ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story