コラム

「対アフリカ援助で中国と協力する」日本提案の損得

2018年01月15日(月)18時30分

その一方で、これと並行して2000年代半ばから日中関係は冷却化。こうして日中は「アフリカの国際的支持」を取り合う援助競争を加速させていったのです。

援助競争のエスカレート

表は、日本のTICADと中国の中国-アフリカ協力フォーラム(FOCAC)でそれぞれ提示された主な支援の内容を示しています。ここからは特に2000年代以降、日中がアフリカにおいて「援助競争」を繰り広げてきたことがうかがえます。

mutsuji2018011501.jpg

それにともない、日中はアフリカでお互いにネガティブキャンペーンを展開。2014年1月、安倍首相はエチオピアなど三ヵ国を歴訪し、140億ドルの援助と貿易を約束。それに先立って谷口智彦内閣官房参与(当時)は英国BBCのインタビューに対して、「日本や英国といった国はアフリカの指導者に美しい邸宅や美しい官舎を提供することはできない」と発言。相手国政府との関係を強化するため、中国の援助には政治的有力者へのプレゼントに近いものが珍しくなく、この発言は言外に中国を批判するものとみられます。

一方、その直前に安倍首相が靖国神社を参拝していたこともあり、そのアフリカ歴訪の直後に中国の解暁岩エチオピア大使はアフリカ連合(AU)の場で、安倍首相を「アジアのトラブルメーカー」と評しました。

冷戦期、政治的に対立していた米国とソ連は、アフリカを含む開発途上地域で支持を競い、援助をそのための手段として用い、さらに相手に対する国際的信頼を損なう宣伝に余念がありませんでした。アフリカをめぐる日中の援助競争は、これを想起させるものといえます。

日中の共通点

2000年代から欧米諸国の間でも、「縄張りへの侵入者」として中国のアフリカ進出には警戒感が生まれていました。しかし、日本と中国の関係は、欧米諸国との関係より複雑なものになりがちでした。ここで重要なことは、日本の場合、立場は欧米諸国に近くとも、援助の内容や考え方は中国に近いことです。

欧米諸国の場合、特に1990年代以降、教育や医療といった社会サービスを無償で提供する援助が一般的です。そこには、経済成長より貧困対策を優先させる姿勢が顕著です。また、援助と政治改革の要求をセットにすることも珍しくありません。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数

ビジネス

現在の政策スタンスを支持、インフレリスクは残る=ボ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story