コラム

グローバルサウスがBRICS加入を目指す3つの理由──先進国で忘れられた70年の暗闘

2023年08月22日(火)14時20分
プーチン大統領と画面に映る各国首脳

オンライン形式で開催された第14回BRICS首脳会議でのプーチン大統領と画面に映る各国首脳(2022年6月23日) Sputnik/Mikhail Metzel/Kremlin via REUTERS

<途上国・新興国をBRICSに向かわせる原動力とは>


・BRICSには20カ国以上の途上国・新興国が加入の意思を正式に表明している。

・先進国との対立が鮮明になる中ロがメンバーのBRICSに加入を目指す国が多いことは、長年の南北対立の帰結である。

・先進国が「敵か、味方か」と二者択一を迫ることは、グローバルサウスの警戒心を強めてBRICSに接近させる原動力になりかねない。

BRICSプラスへの道

8月22日から南アフリカでBRICS首脳会合が開かれる。最大の議題の一つがメンバー国の拡大、通称BRICSプラスの発足だ。

すでに20カ国が公式に参加の意思を表明しており、そのなかにはサウジアラビア、アルゼンチン、インドネシアなど先進国と良好な関係の国も少なくなく、バイデン政権が2021年から開催している民主主義サミットに参加している国も含まれる。

ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字をとったBRICSは、先進国主導の国際秩序と距離を置く新興国の集まりだ。中ロとそれ以外の3カ国の間に温度差はあるが、いずれもロシアのウクライナ侵攻を公式に批判していない。

今年のBRICS首脳会合では、ドルに代わる国際取引の決済手段も議論されるとみられている。これもアメリカ主導の世界への挑戦といえる。

このグループに多くの国が参加を希望することに、疑問を抱く人もいるかもしれない。

しかし、実は不思議でも何でもない。グローバルサウスには多かれ少なかれ先進国への不信感があるからだ。そこには第二次世界大戦後に多くの途上国が独立して以来、約70年におよぶ確執がある。

ただし、まとまった内容を語ろうと思えば一冊の本になってしまうので、ここでは以下の3点に絞って整理しよう。

・標準化に対する拒絶反応
・二大陣営に分裂した世界における選択の余地
・冷戦期と異なる高い流動性

「合わせろ」圧力への抵抗

第一に、根本的な理由として、標準化の圧力があげられる。

その古典的なものが自由貿易だ。経済学の標準的なテキストでは自由貿易がお互いの利益になると説かれている。

しかし、冷戦時代から途上国の間では、自由貿易が先進国の利益を大きくするものとして警戒されてきた。

まともに競争力ある産品を輸出しあえば、先進国から多くの製品は入ってくるが、途上国のなかでも貧困国には農作物や天然資源以外に輸出できるものが少なく、さらに資金力ある先進国企業に取引を握られやすいからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米高官、中国と北朝鮮巡り協議 強制送還への懸念表明

ワールド

トランプ氏、石油業界幹部に環境規制破棄を明言 10

ビジネス

英中銀、近いうちに利下げとの自信高まる=ピル氏

ワールド

ロシア軍の侵攻阻止可能、同盟国の武器供給拡大で=ウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story