コラム

日本経済はいつ完全雇用を達成するのか

2016年12月05日(月)12時50分

ferrantraite-iStock

<「日本経済はおそらくあと2年程度で完全雇用を達成する」と考えている。ここでは、その根拠を示す>

 本稿は、「黒田日銀の異次元金融緩和は『失敗』したのか」(11月4日付)と「黒田日銀が物価目標達成を延期した真の理由」(11月25日付)の続編である。日銀は11月1日の金融政策決定会合で、物価2%目標の達成時期について、5回目の延期を決定した。11月25日付拙稿で論じたように、その最大の理由は、日銀が当初想定していた「完全雇用と考えられる失業率」が、現実の完全雇用よりも高すぎたためである。

 筆者はまた、11月4日付拙稿で、「物価2%目標を2018年度中に達成という日銀の新たな約束が今度こそは実現される蓋然性は高い」と述べた。物価2%目標が達成されるということは、完全雇用が達成されるということとほぼ同義であるから、筆者は要するに、「日本経済はおそらくあと2年程度で完全雇用を達成する」と考えていることになる。本稿では、その根拠を示す。

十分な賃金上昇を欠いていた2015年までの物価上昇

 表1は、第2次安倍政権が成立した2013年以降2016年9月までの、日本の完全失業率、インフレ率、名目賃金上昇率、実質賃金上昇率の推移である。ここでのインフレ率とは、日銀版コア指標とか基調CPIとも呼ばれる、「生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価総合指数(消費税調整値)」の前年比上昇率である。また、名目賃金上昇率と実質賃金上昇率は、総務省統計局の「毎月勤労統計調査」における現金給与総額指数(就業形態計、事業規模5人以上)および実質賃金指数(同上)の増減率である。ちなみに、この実質賃金指数とは、物価変動の影響を割り引くために、現金給与総額指数を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で調整したものである。

 黒田日銀が成立し異次元金融緩和政策が実質的に始まったのは2013年4月であるから、この表はその前後から直近までのマクロ経済的推移を示すものといえる。一見して分かるように、完全失業率はその間、多少のぶれを伴いつつも、基本的に低下し続けてきた。それに対して、インフレ率の方は、2015年末までは目標に向かって何とか上昇しているようにもみえたが、2016年に入ってからは完全に腰折れしたわけである。

日本の完全失業率、インフレ率、名目賃金上昇率、実質賃金上昇率(2013年〜2016年9月)
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プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

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