コラム

デンマーク軍兵士がアフガンで関与した平和維持という戦争の姿

2016年09月29日(木)16時45分

『ある戦争』 監督:トビアス・リンホルム (C) 2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

<タリバン政権崩壊後のアフガニスタンに、国際治安支援部隊を送りつづけてきたデンマーク。その戦場の現実を描き、支援活動そのものの意味を掘り下げる戦争ドラマ>

14年間、常にデンマークは戦争下にある国だった

 デンマークは国際平和協力の一環として、紛争がつづくアフガニスタンへの派兵をつづけてきた。そんな活動は映画の題材にもなっている。

 スサンネ・ビア監督の『ある愛の風景』(04)では、アフガニスタンに送られた兵士とその家族の苦悩が描き出される。兵士は作戦中にヘリもろとも撃墜され、家族は戦死の知らせに打ちのめされる。だがやがて、捕虜となって極限状態に追いやられた兵士が、別人のようになって帰還を果たす。

 アフガニスタンに送られた若い兵士たちに7ヵ月に渡って密着したヤヌス・メッツ監督のドキュメンタリー『アルマジロ』(10)では、銃撃戦が凄まじい臨場感で映し出され、戦争中毒に陥っていく若者の姿が浮き彫りにされる。

 そして、今回取り上げるトビアス・リンホルム監督『ある戦争』(15)もアフガニスタンへの派兵を題材にしている。この映画には、兵士とその家族の苦悩やリアリティにこだわった戦場の描写など、上記2作品に通じる要素も盛り込まれているが、支援活動そのものの意味を掘り下げようとしているところが異なる。リンホルムの問題意識は、以下のような発言によく表れている。

 「この14年間、常にデンマークは戦争下にある国だったと言えます。私達の世代を定義づけるものは、他の何よりも、我々が若者たちを戦地へ送り続けてきたという事実です。それもデンマークの国境を守るためではなく、もっと曖昧な政治的判断によるものです。(中略)自分たちが民主主義の名の下に仲間を送り出しているのは一体何のためなのか、ということを考えるべき時だと思います」

 リンホルムが言わんとしていることは、単にデンマークがアフガニスタンへの派兵をつづけてきたということだけではないだろう。アフガニスタンでは、タリバン政権崩壊後の2001年末から2014年末まで、多国籍軍から成るISAF(国際治安支援部隊)が、アフガニスタン政府を支援する任務についていた。デンマークは、予備役を含めた兵員数の5%にあたる750名を派兵したが、その比率は参加国のなかで最も高い。また、43名の死者は人口比では最も高い数字になるという。

 それでも支援を継続したのは、国民の支持があったからだ。ヨーロッパ諸国で次第に部隊の縮小を求める声が強まり、イギリスやドイツ、オランダなどで撤退支持が過半数に達しても、デンマークでは少数派に留まっていた。そして、オランダやカナダの駐留軍が撤退しても、支援を継続し、ISAFの完了後に開始されたRSM(確固たる支援任務)にも参加している。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

PIMCO、金融緩和効果期待できる米国外の先進国債

ワールド

AUKUSと日本の協力求める法案、米上院で超党派議

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story