コラム

トランプ降ろし第3のシナリオは、副大統領によるクーデター

2017年05月16日(火)11時00分

2つ目は、問題の性質です。例えば現時点の状況、つまり大統領とその周辺にスキャンダルの疑惑があり、同時に大統領の資質が幅広く疑われるとなると、72~74年に発生した「ウォーターゲート事件」を思い起こす、そんな声が日に日に高まっています。ウォーターゲートの場合は、弾劾という流れになって、下院決議で弾劾決議がされる直前に大統領が自発的に辞任する結果となりました。

ですが、問題そのものは「ニクソンが再選をかけた大統領選挙の結果について疑心暗鬼に駆られた結果、敵陣営の会話を盗聴すべくスパイを送り込んだ」ことと、その事件への「大統領の関与に関する隠蔽を図った」という、バカバカしいと言えばバカバカしい事件です。

ですが、仮に「トランプ陣営のロシアとの癒着」が証明されるとなると、これは大統領選において外国勢力と結託し、外国勢力の介入を許したという建国以来の大不祥事になるわけで、問題のインパクトはこちらの方が上だと言えます。

一方で、ウォーターゲート事件というのは、その発覚の時点で「民主党本部に潜入して盗聴器を仕掛けようとした」スパイは捕まっているわけで、「犯罪が立証されている」ところからのスタートでした。論点は「大統領の関与」と「大統領による隠蔽工作」の有無に絞られていったのです。

【参考記事】FBIコミー長官解任劇の奇々怪々

これに対して、今回の「ロシア疑惑」は側近による金銭授受がせいぜいで、大統領本人の関与や、ロシアとの癒着を立証するのはそう簡単ではありません。つまり正規の弾劾プロセスになると、相当に時間を要する可能性があります。

この2つのファクターを頭に入れて考えると、まず1つのシナリオは、このままズルズルとトランプ政権のままで中間選挙を迎えるという流れです。そうなると、中間選挙ではもしかすると「トランプ不人気」を受けて、民主党が大きく勢力を伸ばすかもしれません。

その場合は、2019年の新しい議会で、大統領への弾劾が始まる可能性が大きくなります。そうすると、2020年の大統領選挙へ向けて、共和党は常に守勢に立たされるわけです。だからと言って、民主党主導での弾劾の動きに共和党が即座に協力するわけにもいかないし、そもそも大統領を辞任させるのにスッタモンダすれば党のイメージダウンは加速、仮にペンス副大統領が政権を担うとしても求心力に傷が付きます。

2つ目のシナリオは、早期に弾劾のプロセスを開始するという流れです。ですが、その場合も民主党が団結している状態に、共和党の「アンチ・トランプ派」が乗っかる形となり、共和党として党勢回復は難しいでしょう。そもそも、大統領が頑強に抵抗して政局が流動化する可能性もあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story