コラム

東京五輪は「ユニセックス・トイレ」にどこまで対応できるか

2017年07月20日(木)16時30分

男女共用のユニセックス・トイレへの移行は日本ではハードルが高いが chameleonseye-iStock.

<アメリカではLGBTQの権利確保の一環として男女共用の「ユニセックス・トイレ」の普及が進んでいる。東京五輪開催を控えた日本でも対応が急がれる>

アメリカでは、2010年頃からLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ジェンダークィアの総称)の権利確保の一環としてトイレの問題が真剣に議論されてきました。特に2015~16年にかけては、民主党のオバマ政権が「自身のジェンダー認識に基づいた自由なトイレ利用」を合法化したのですが、これに対して保守の側が反発し、大統領選の争点にもなるような議論が起きました。

賛成派は、トランスジェンダーの人は自分が内心で認識しているジェンダーのトイレを使用して構わないという立場ですが、これに対して保守派は「出生証明書に記載されているジェンダーのトイレしか使用を認めるべきでない」と強硬に主張して大論争になったのです。

その背景には、保守派の側が、宗教的・政治的な理由からLGBTQの権利に冷淡ということもありましたが、同時に「トランスジェンダーを装った犯罪者」が女子トイレに侵入する犯罪被害への懸念もありました。

【参考記事】スタバvsイスラム団体 インドネシアでボイコット騒動

この問題ですが、ここに来て急速に別の方向へ向かうことになりました。それは、トイレの「ユニセックス化」という方向性です。つまり、トイレを女性用と男性用とに分けているからトランスジェンダーの人々が差別されるわけで、ならばトイレを一気に男女共用にしてしまおうという動きです。

これは、元々LGBTQの権利に敏感な地域では、2000年代の終わりから少しずつ進められていたものなのですが、これが全国に広まりつつあるのです。例えば、多くの州では「共通スペースのないトイレの男女別禁止」を法制化しようとしています。つまり完全個室のトイレは、誰でも使っていいという措置です。

これはビルや飲食店などで個室のトイレが例えば2つあって、1つが男性用、1つが女性用になっているような場合は、両方とも「ユニセックス化」しなくてはいけないというもので、こうした動きが広まっています。

さらに学校やオフィス、あるいは飲食店などで規模の大きな「ユニセックス・トイレ」を設置する動きも出てきています。例えば、シアトルにできたスターバックスの新しいタイプの旗艦店舗「スターバックス リザーブ ロースタリー&テイスティングルーム」に行く機会があったのですが、大規模なトイレは全部が個室となっており「ユニセックス化」されていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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