コラム

小池新党の攻勢に、自民反攻の一手はあるか?

2017年10月06日(金)17時50分

その際に、様々な既得権益との「しがらみ」について自覚し、思いきって断ち切る姿勢も必要でしょう。この点でスキを見せれば、小池氏の思うツボですが、反対に厳しく自分たちを律することができれば勝機はあると思います。

一方で、枝野氏が「立憲民主党」を立ち上げました。ですが、立憲主義が滅びたら亡命するなどと一種の大衆蔑視を平気で口にしたこともあり、枝野氏は、イデオロギー面は得意ではないように思われます。小池氏に「排除」されそうになった流れの中で「リベラル軸の再結集」という方向に追い込まれましたが、本来の枝野氏はそうではなくて実務で汗をかくのが持ち味と思います。第三極などというと聞こえは良いですが、万年野党など作ってもまったく面白くありません。同じことは国交副大臣で実務に力を発揮した辻元氏などもそうです。

枝野氏も辻元氏も、イデオローグとしてのイメージが先行していますが、少なくとも政権与党の際には、理念と現実の隙間を埋める実務で汗をかいていた人たちです。そして苦境を通じて学び、とりあえず状況から逃げなかった人でもあります。そうした人材も加わるような流れになれば「自公中道路線」も賑やかになるのではないでしょうか。

それでは自民党が安倍政権の方針から大きく左にシフトする――のかと言えば、必ずしもそうではありません。安倍政権は、日米関係を緊密化しただけでなく、中国やロシアとの外交も丁寧に行ってきましたし、韓国との間では現状はともかく日韓合意を一度は実現しています。また国連の場で「戦時の女性の人権問題」などにも積極的に取り組んできました。

経済政策に至っては、オバマのブレーンが絶賛する「超リベラルな政策」をとってきています。他でもないオバマ大統領の広島訪問を実現した背景には、内閣が非核三原則でまったくブレなかったという点もありました。その中で外交を担ってきた岸田氏などが、その安倍路線をほとんどそのまま継承すれば良いのです。

自民党の次期リーダー候補としては、石破茂氏の存在も重要です。石破氏についても、改憲問題などで思い詰めて小池氏と組むよりも、自分のライフワークは地方創生だという踏ん切りをつけて、岸田氏などと組む方が時代への貢献になると思うのです。

「希望」が第一党を狙い、そこで大連立を工作してくるとしたら、自公は中道シフトを行って大連立を拒否し、それこそ立憲民主党の実務家を引っこ抜いてきて数を合わせていく、そんな中で、選択可能な二大政党制ができれば、日本の民主主義も活力を取り戻せるのではないでしょうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story