コラム

複雑に絡み合うトランプ別荘強制捜査の政治的意味

2022年08月17日(水)14時10分

強制捜査のニュースを聞き付け、トランプ別荘前に集結した支持者たち Marco Bello-REUTERS

<トランプを逮捕起訴に持ち込んで、次期大統領選への出馬を不可能にさせる意図はありそうだが、果たして立件できるかどうかは不明>

8月6日月曜、ドナルド・トランプ前米大統領が住居兼オフィスとして使用している、フロリダ州の別荘「マーラーゴ」に、突然FBIが家宅捜索に入りました。ここは、亡くなった安倍元首相の夫妻も訪問したことがある、有名なリゾートです。捜査開始の時点では目的は明示されていませんでしたが、後に、機密文書の持ち出し疑惑だと報じられ、追ってその内容は「核に関する国家機密」だという説明が明らかにされました。

当初は詳細を語らなかったメリック・ガーランド司法長官も、捜査が進む中でFBIによる捜査については自分が承認したことを明言しています。これに対して、怒ったトランプ支持者は「トランプ2024」、つまり次期大統領選にトランプが出馬することへの待望論を示した大きな旗を振り回して集結。一時は騒然とした雰囲気となったようです。また、オハイオ州ではトランプ派がFBIを襲撃して銃撃戦の末に射殺されるという物騒な事件も起きました。

この捜査ですが、もちろん政治的な意味があります。と言いますか、政治的意図によって指揮された捜査と考えるのが自然です。では、具体的にどんな意味合いがあるかというと、5点ほど考えられると思います。

F B Iが見せた「本気度」

1つ目は、11箱に及ぶという押収した機密文書を解析することで、トランプを逮捕起訴に持ち込み、2024年の大統領選への出馬を不可能にするという意図です。FBIは逃亡を防止するために、パスポートを差し押さえてから捜査に入ったと言われており「本気」を見せていますが、果たして立件ができるかどうかは、現時点では不明です。

2つ目は、ヒラリー・クリントンへの中傷に対する政治的報復という意味合いです。ヒラリーは、国務長官当時に省内の内通者の存在を恐れたのか、あるいは単純に接続の利便性を優先したのか、理由はハッキリしませんが、公務に私的なメールサーバを使用して問題になったことがありました。この件について、2015〜16年の選挙戦を通じて、トランプはヒラリーの「犯罪」を声高に追及しており、トランプ支持者は「ヒラリーを投獄せよ」などと大合唱して中傷したのでした。

また、トランプはわざわざ「機密情報の持ち出し」に対する厳罰化もしています。ですから、今回の一件が仮に起訴ということになれば、自分が厳罰化した法律に自分が裁かれるということになるわけです。そのことも含めて、ヒラリーに対する一連の中傷に対する反撃という意味合いを指摘する声があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story