コラム

ライドシェア制度前進のために、まず論点の整理を

2024年02月21日(水)14時15分

ライドシェアの車内が犯罪の温床になるという懸念が出ていますが、運転技術の低い一般ドライバーが参加することも含めた、ドライバーに起因する危険性の問題についても突っ込んだ議論が必要です。この点については、80歳のドライバーや日本のドライブマナーや土地勘、言語に限界のある外国人ドライバーと比較して、どちらが危険なのかは、実施する中でしっかり統計を取って判断する必要がありそうです。

 
 

一方で、乗客が加害者になる可能性からドライバーを守る対策も必要です。この点に関しては、カメラによる監視の進んだ現在の都市部のタクシーのような方法が良いのか、ライドシェアのシステムが持っている乗客の履歴追跡を行うのが良いのか、これもデータを蓄積していかなくては、結論は出せません。

さらに重要なのは運賃です。予約の時点で運賃が確定するという安心感は、ライドシェアの大きなメリットです。また繁忙時間帯には高く、閑散時間帯には安くなるという運賃の柔軟性も需給の最適化に寄与しています。こうしたメリットを、どこまで活かすのかという問題があります。

外国企業が入れば日本経済への寄与は薄まる

また、ドライバーの生活を保障するために運賃をどうやって上方に誘導するのかという問題があり、その一方で、富裕な旅行者ニーズと、免許返上の代替や福祉タクシーなどのニーズとは、価格のゾーンを分けていく必要もあると思います。今回の措置を契機として、タクシー運賃の将来像をどう描いていくのかという議論も重要です。

ちなみに、ライドシェアについては世界展開している外国企業がアプリ込みで進出を本格化させるようですが、これは大きな問題です。ただでさえ利幅の薄い運送業の収益から外国企業が「上前をはねる」というのでは、せっかく改革が成功しても日本経済への寄与を薄めてしまいます。

大規模なEコマースにしても、検索エンジンにしても、既存の産業に改革を迫るイノベーションは、国内勢力が先行しようとすると潰されたり妨害されたりしてきました。その結果として、規制緩和が実現した時には外国勢力が利益を持っていってしまったわけで、そのような経済政策を繰り返してはいけないと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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