コラム

24歳イラン人写真家のストールン・モーメント

2016年04月26日(火)11時06分

かっての栄華をなくしたバザー From Khashayar Javanmardi @kjavanmardi

 人は長く住んだ土地に情緒的な愛着と絆を覚える。そして写真家の場合、それが自らのプロジェクトになることが往々にしてある。今回紹介するイラン人のInstagramフォトグラファーもそんな一人だ。多感な10代半ばから10年間、そして現在も、カスピ海に面したイランのギラン州州都ラシュトに住み続け、南カスピ海地域を勢力的に撮り続けているハシャヤール・ジャバマーディだ。

 イラン側のカスピ海は、単に塩湖の湖岸地帯というだけではない。山岳地帯でもあり、降雨量が多い。長い歴史の中で諸民族が興亡したところでもある。そのため、中部、南部のイランとは異なる文化生活様式を持っている。また、カスピ海沿いはリゾート地として知られるが、同時に、イランの中でも経済発展が遅れ、貧困にあえいでいる人が多い土地でもある。ジャバマーディは、そんな変化に富む南カスピ海の風土と文化、そして、その地で日々の生活に困窮している人々の日常に焦点を当てたいという。

【参考記事】シャガールのように、iPhoneでイランを撮る

 まだ24歳ながら、構図の決め方と、光と影の取り入れ方が巧みだ。その中で、主な被写体である人物は、何か抑え込まれたような感情を、本人たちも気づかないまま静かに解き放っている。そこには、一瞬にして被写体の表情や、感情の静なる動きを切り取る「ストールン・モーメント」とも言われる技量が使われている。

 だが同時に、むしろ、彼の人懐っこさを武器にしたコミュニケーション、あるいは自分の存在を知らせた後、被写体に溶け込んでからのストールン・モーメント的な撮影パターンも多い。一度、カスピ海で撮影を共にしたことがあるが、チャンスがあればすぐ大胆にかつ親密的に人に接していた。その中で彼は、半ば無意識的に決定的瞬間を探っていたのである。

息子が刑務所にいるボートマン

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story