コラム

さすがの共和党員もドン引きする、ペロシ叩き

2022年11月14日(月)13時36分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
共和党

©2022 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<民主党の重鎮、ナンシー・ペロシ下院議長の自宅に押し入り、82歳の夫の頭部をハンマーで打ち大けがを負わせ、逮捕。「ペロシ叩き」は5000万ドルを注ぎ込むほどの共和党の重要戦略だが、本当に叩いてはいけない>

ナンシーはどこだ!──10月28日未明、そう叫びながら男が民主党の重鎮、ナンシー・ペロシ下院議長の自宅に押し入った。彼女は留守だったが、男は82歳の夫の頭部をハンマーで打ち大けがを負わせ、逮捕された。

共和党の政治家は襲撃を非難したが、長年ペロシへの怒りや憎しみをあおってきた反省は一切ない。

We do not condone the attack on Pelosi's home...We prefer to attack her character!(われわれはペロシ宅への攻撃を容認しない...人格への攻撃のほうがいい!)と、風刺画のセリフどおりの姿勢だ。

Tシャツにあるように、共和党はHammering Pelosi since 2003(2003年〔ペロシの民主党トップ就任の年〕以来ペロシをたたき続けている)。もちろん作者は批判を意味する「たたく」と「ハンマー」をかけている。お見事。これを上回るダジャレは思い付かない。まさに「頭打ち」だ。

多少不謹慎でも、風刺画家や芸人の言葉遊びは許される(と信じたい)が、共和党のペロシたたきは度を超えている。

何度も「バカ」「ウソつき」「売国奴」「悪」などと罵倒するし、トランプ前大統領が「狂人」と罵ったことで、アマゾンでは「ペロシは狂人だ」という文言とトランプの顔が描いてある野球帽が買える。これをかぶる人の正気も疑われそうだけどね......。

これらは口が滑った発言ではない。民主党で最も有力な政治家の1人であるペロシをたたくことは共和党の重要な戦略で、今年だけで「反ペロシ」広告に5000万ドルもつぎ込んでいる。

過去にはペロシの選挙区カリフォルニアの共和党下院議員候補が、ペロシ似の役者が悪魔崇拝のリーダーを演じるCMを作った。

今年も共和党の公認を狙う候補が自らニセペロシやニセバイデン大統領を銃で撃つCMが流れた(経済不安が高まるアメリカだが「ペロシの物まね業」はかなり景気がよさそう!)。

結局、共和党のこんなレトリックは実害にもつながっている。去年の連邦議会議事堂乱入に参加したトランプ支持者はペロシを悪魔として描いたプラカードを掲げて、彼らも「ナンシーはどこだ?」と叫びながら議事堂に押し入った。

いつもナンシーの居場所が分からないようだが、事件の責任の所在は明らかだ。

ポイント

GOP
米共和党の愛称であるGrand Old Party(古き良き党)を略したもの。この略称のほうがニュースなどで使われる機会が多い。

Nancy Pelosi
ナンシー・ペロシ。2003年に女性初の下院院内総務、07年に初の女性下院議長に就任するなど長年民主党トップの座にあり、共和党と対立する機会が多い。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ワールド

ウクライナ、一部受刑者の軍入隊を許可 人員増強で

ワールド

北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総

ビジネス

NY連銀、新たなサプライチェーン関連指数発表へ 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story