最新記事

デザイン

りんごをアクリルに閉じ込めた三木健とは何者か

2017年12月7日(木)17時03分
山田泰巨

上海当代芸術館で行なわれた『APPLE+展』の会場で、アクリルに閉じ込められたりんごを撮影する来場者(写真提供:三木健デザイン事務所)

<日本のグラフィックデザイナーが始めた「デザインとは何か」を伝える独自の教育メソッドが国内外で注目を浴びている。このたび上海で開催された展示会も盛況。りんごを再認識し、デザインの基礎を学ぶとは、一体どういうことなのか>

今この時期、店頭を赤く彩る旬の果物、りんご。世界中の誰もが知るこの果物を使って、デザインの楽しさ、奥深さを学ぶ授業を展開するのがグラフィックデザイナーの三木健さんだ。中国の上海で、りんごをアクリルに閉じ込めて展示してみせたのも三木さんである。

企業のシンボルマークや広告ビジュアル、ブランディングなどを幅広く手がける三木さん。赤い鼻の黒い犬をキービジュアルに据えた日本IBMのノートパソコン「ThinkPad I Series」のプロモーションは、多くの人の記憶に残っているのではないだろうか。ノートパソコンそのものを使わずに、真っ黒な筐体の赤い操作デバイス「トラックポイント」を印象付けた名作広告だ。

三木さんのデザインはこのように、デザインをただ視覚化するのではなく、何かが"見えてくる化"をすることで自発的な気づきを促す。そんな三木さんが、大阪芸術大学でデザインを学ぶ学生に向けて「デザインとは何か」を伝えるために始めた授業が「APPLE」だ。

誰もが知るりんごだが、改めてその絵を描くと、ただ赤く丸い形を描いてしまう。ここで私たちは、子供の頃から何度となく味わってきたりんごの記憶が、実は漠然としていることに気がつく。これまで知っていると思っていたりんごに、無数の知らないことがある。

ソクラテスのいう「無知の知」のように、己の知らなかったことを理解してこそ、初めてデザインの基礎である「気づきに気づく」ことができるようになると三木さんは言う。「APPLE」では半年間に15のプログラムを通してりんごを再認識し、デザインの基礎を学んでいく。

その授業はまず、りんごを観察することから始まる。同じりんごでも、立体物であるりんごの皮を剥き、カットすることでカタチは様々に変わる。りんごの外周や皮の面積はどのようにすれば測ることができ、その数値は果たして予想していた通りなのか。赤一色で塗ってしまいがちなりんごだが、実際には単色ではないりんご1つに、どれだけの色があるのか採集する。

束ねたつまようじで点描のりんごを描くことで不自由さと発想力に気がつき、りんごから発想する言葉を連想することでコミュニケーションの広がりに気がつく。こうした多彩なプログラムで、デザインという枠を超えて学生たちは、考え方、作り方、伝え方を学び、立体的に思考することを学ぶ。

デザインされたプロダクトは世界中に溢れ返るが、今やカタチを生み出す前に、その前提にある仕組みづくりそのものがデザインを捉えるようになってきた。造形に留まらず、領域を横断的に捉えながらデザインの本質を見抜く洞察力を磨くことは、学生に限らず、多くの人に新たな世界を開く。

applebook171207-2.jpg

日本での展覧会よりも大きな会場で、デザインの基礎を考えるきっかけを生み出した(写真提供:三木健デザイン事務所)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中