最新記事

漫画

戦国武将マンガの金字塔『花の慶次』、原哲夫はジャンプ連載時「苦しかった記憶しかない」

2023年1月21日(土)18時00分
写真:宇田川 淳 文:高野智宏 ※Pen Onlineより転載
花の慶次

©隆慶一郎・原哲夫・麻生未央/コアミックス 1990

<戦国一の傾奇者を描いた『花の慶次』。作品を通してその名が世に知れ渡ったのが、武将・前田慶次だ。男気あふれる彼の魅力と、1990~93年の連載時の制作秘話を、漫画家の原哲夫に訊いた>

※明智光秀はなぜ「本能寺の変」を起こしたのか? 「関ヶ原の戦い」で真の裏切り者は誰だったのか? 戦国時代には多くの謎が残され、そんな歴史の悪戯が人々の興味関心を惹きつけることで、それらを題材としたエンターテインメント作品も数多く生まれてきた。あらゆる角度から戦国武将の実像に迫ったPen最新号「戦国武将のすべて」より。

特装版は、原哲夫による『花の慶次』が表紙
Amazonでの購入はこちら
楽天での購入はこちら


『花の慶次―雲のかなたに―』は、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で1990年春から3年間にわたり連載された、戦国時代後期を舞台とした漫画作品だ。

主人公は、滝川益氏の次男にして前田利久(としひさ)の養子となった、前田慶次こと前田慶次郎利益(けいじろうとします)。天下一の傾奇者(かぶきもの)と謳われた慶次の、信念を貫き「傾(かぶ)く」、自由な生き様を描いた活劇である。

時代小説作家・隆慶一郎の『一夢庵風流記(いちむあんふうりゅうき)』を原作に、漫画を手がけたのは、『週刊少年ジャンプ』黄金期の礎を築いた作品のひとつ『北斗の拳』の作者・原哲夫だ。

「病床ながら隆先生は原作を引き受けてくださり『雲のかなたに』の副題もいただいたのですが、数カ月後に亡くなられました」

隆の漫画連載はかなわなかったが、病室で聞いた隆の言葉で、原さんは決意を新たにする。

「実は慶次に関する史実は、ほんのわずかしか存在しません。しかし先生は、『だからこそ作家が自由に創作できる』と。私も原作のままでなく、行間を描いてこそ、漫画家の仕事だと思っていましたので、先生の言葉に深く共感し、改めて意欲が湧きました」

penbusho20230121-hananokeiji-2.jpg

原哲夫●漫画家。東京都出身。『北斗の拳』『花の慶次―雲のかなたに―』『蒼天の拳』などの人気作を手がけ、現在も『月刊コミックゼノン』(コアミックス)で連載中の『前田慶次 かぶき旅』の原作に携わる。絵本『森の戦士ボノロン』のプロデュースも務める。www.haratetsuo.com

『花の慶次』の魅力といえば、慶次の強さと優しさ、そしてなにより、圧倒的な格好よさに尽きる。

「僕自身、読後感の爽やかな勧善懲悪なヒーローものが好きなのです。主人公も男の理想像を具現化した存在として、魅力的に描くことが私の使命だと思いました。私は男の"華"を描いているのです」

身の丈六尺五寸(約197cm)の体躯を誇り、鉄製の朱槍(しゅやり)を軽々と振り回し敵をなぎ倒す豪傑である一方、命をかけて傾き通す慶次は、まさに男が男に惚れるヒーローそのもの。その戦いや言動、そして振る舞いに心躍らされた読者も多いことだろう。

しかし、当時は"ジャンプ黄金期"と称される時代。実は原さんにとって、連載していた3年間は毎週が試練であったようだ。

「当時、少年漫画誌で時代劇はタブーでした。その常識を破ったことに意義はあったと思うが、やはり読者アンケートでは上位を狙えず打ち切り候補でした。状況を打破しようと慶次の顔を変えたりと試行錯誤もしましたが、常に苦しかった記憶しかないですね」

『北斗の拳』で一世を風靡した人気漫画家から一転、毎週、打ち切りの恐怖と戦いながら執筆を続ける苦境へ。そんな原さんを支えたのが、佐賀鍋島藩士の山本常朝(つねとも)による、藩主に仕える武士の心得などを記した口伝集『葉隠(はがくれ)』だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア軍の上陸艇を撃破...夜間攻撃の一部始終

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中