最新記事

2016米大統領選

レストラン経営者「私はヒラリーの大ファンだ」

2016年10月27日(木)11時13分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

メルバ・ウィルソン(40代) Photograph by Q. Sakamaki for Newsweek Japan

<今年の米大統領選は言わば「嫌われ者」同士の対決だ。両候補とも不支持率が約60%に上るなか、有権者はどのような理由で投票するのか。2人の支持者の素顔に迫る前後編企画、後編は「人種と銃」の問題を身近に感じるクリントン支持者の本音を>

※前編:元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」

 ハーレム生まれ、ハーレム育ち。メルバ・ウィルソン(40代)は、ニューヨークのハーレム地区でソウルフードの人気レストラン「メルバ」を経営するやり手の女性オーナーだ。先週、米大統領選の最後の候補者討論会が始まる直前にレストランを訪ねると、彼女ははっきりとこう言った。「私はヒラリーの大ファンだ」

 なぜ共和党のドナルド・トランプではなく、民主党のヒラリー・クリントンを支持するのか。ハーレムという黒人社会で生まれ育ち、現在は16歳の息子の母であるウィルソンにとって、息子がより生きやすい国を作るのはどちらかを考えれば答えは明白だという。クリントンは同じ女性で母であり、教育問題に熱心で、マイノリティ社会にも積極的に関わってきた。

 しかし話を聞いていくと、彼女がクリントンを支持する理由はどうやらそれだけではなさそうだ。むしろ根底にあるのは、トランプに対する絶対的な拒否感ではないか。そう聞くと、彼女はこう答えた。「私はヒラリーこそ大統領に適任だと思う。だが彼女を支持する大きな理由は、トランプを支持していないことだ」

 笑顔の絶えないウィルソンは、努めて朗らかにこう切り出した。「私には16歳の黒人の息子がいる。普通、母親が16歳の息子とする会話って、大学はどうするのとか、彼女はいるのかとか、夕食に何を食べたいかとか、そういうことでしょう。もちろん、私もそういう会話をする。でも私は、その間にこういう話も差し込まないといけない。『今日学校で何をしたの? ......ところで今日は、警察に呼び止められなかった?』って」

 アメリカではこのところ白人警官によって黒人男性が射殺される事件が相次ぎ、人種による分断と銃の問題が深刻さを増している。若い黒人男性を息子に持つウィルソンからすれば、全米ライフル協会(NRA)から支持を受けているトランプではなく、銃規制の強化を訴えるクリントンを支持するのは当然なのだろう。しかも射殺事件の根底にある黒人への人種差別は、日常にある身近な問題だ。

 数カ月前、仕事の手伝いをしてもらって夜遅くなる息子を「ウーバー(アプリ1つでタクシーを呼べるサービス)」に登録させたところ、ウーバーを使った息子が警察に職務質問されたという。

 息子が友人と一緒にウーバーに乗って目的地であるタイムズスクエア近くのファミリーレストランに着くと、降りた瞬間に待ち構えていた警官からIDとクレジットカードの提示を求められた。運転手が、乗車してきた黒人少年たちはクレジットカードを盗むなり犯罪的な手法でウーバーを利用したと疑い、車内から通報していたのだ(ちなみにウィルソンの息子は身長が非常に高く、16歳には見えない)。

「人種問題に理解がある大統領かどうかを考えると、トランプはむしろ私たちを分断しようとしており、人種差別をする側だ」と、ウィルソンは言う。「彼の言葉は毒されていて、その毒は私たちに向けられる。彼は人種差別主義者であり、性差別主義者でもある」

「クリントンのほうが、私たち国民を一体化できるチャンスがあると思う。彼女はマイノリティに対してより親身だし、そうしたコミュニティと関わりを持ってきたし、力もある。トランプが大統領になったら、彼の支持者は『自分たち』、つまり白人に属さない人々を堂々と標的にできるようになるだろう。アメリカは、そんな国ではないはずだ。私はアメリカ人として、トランプのような人間が大統領になる可能性があることを恥ずかしいと思う」

参考記事 芸人的にもアリエナイ、トランプ・ジョークの末路

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中