最新記事

市場

世界経済に巨大トランプ・リスク

2016年11月10日(木)19時14分
デービッド・フランシス

「トランプ大統領」で株価が急落した東京市場 Toru Hanai-REUTERS

<トランプ政権がもし言葉通りの経済政策を行うなら、貿易戦争に火が付くだけでなく銀行は巨大化し、地球温暖化は加速し、格差はますます拡大する>

 ドナルド・トランプが米政治史上最大とも言うべき番狂わせで大統領選に勝利してから数時間後、世界の証券市場は前日の混乱が嘘のように落ち着きを取り戻した。イギリスのEU離脱が決まった国民投票後のように、パニック売りが連鎖するという予想は杞憂だった。とはいえ、トランプの経済政策がはっきりしないため、先行き不安は今後もついて回るだろう。市場の混乱がこのまま収まることは期待できそうもない。

「トランプの政策は、実現可能性も優先順位も不透明。それが投資家の心理に影を落とし、それでなくても低迷している投資を抑える方向に働くだろう」と、バンクオブアメリカ・メリルリンチのストラテジスト、サビタ・スブラマニアンは投票日の翌朝に見通しを語った。

【参考記事】【経済政策】労働者の本当の味方はクリントンかトランプか

 民主党候補のヒラリー・クリントンが敗北演説を行う一方で、世界中の市場ウォッチャーは先行き不透明感から、米経済と世界経済は苦難の道をたどることになると警告を発した。

貿易戦争に火がつく

 差し当たって最大の「トランプ・リスク」は貿易障壁が高まること。トランプは既存の貿易協定を破棄し、TPPなど発効待ちの協定から離脱すると宣言してきた。公約を守るなら、中国とメキシコの製品には大幅な関税が課されることになる。そうなれば当然、相手国もアメリカ製品に高い関税をかけ、貿易戦争にエスカレートしかねない。

 トランプがぶち上げた壮大な計画の多くは空約束に終わるにせよ、通商政策に関しては、ホワイトハウスが絶大な権限を持っている。貿易協定を破棄し、WTOから脱退するという公約は、その気になれば実行できる。

「トランプがこのアプローチにしがみつけば、アメリカ経済は大きな試練に直面することになる」と、ピーターソン国際経済研究所のエコノミスト、ウィリアム・クラインは警戒する。

【参考記事】トランプの新政策が物語る「大衆の味方」の大嘘

 トランプはFRBの独立性も脅かしかねない。FRBは米国内のローンの金利に直結する政策金利を決定する権限を持つ。共和党は長年、中央銀行に対する監査権限を議会に付与する法案を通そうとしてきた。共和党の大統領が誕生し、上下院も共和党が多数議席を握った今、この法案が成立する可能性は劇的に高まっている。そうなれば、各国の金融政策にも影響が及ぶだろう。

 トランプの提案は「究極的には、FRBの独立性に対する世界の信頼とアメリカの地政学的な立場を大きく損なう」ことになると、米投資信託会社T・ロウ・プライスのチーフUSエコノミスト、アラン・レベンソンは火曜の夜、顧客宛のメッセージで警告した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア下院、ミシュスチン首相の再任承認 プーチン氏

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中