最新記事

同乗レポート

日本人ウーバー運転手が明かす「乗客マッチング」の裏側

2017年7月20日(木)11時47分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

大手日系金融機関のニューヨーク支社に勤務しながら、副業でウーバー運転手を務める西村武展 Satoko Kogure-Newsweek Japan

<ウーバーはどういう仕組みで車と客のマッチングを行っているのか。どうすればウーバー運転手として上手く稼げるのか。ニューヨークでウーバーの運転手になった日本人の車に同乗させてもらった>

このところ、すっかりニューヨーカーの「足」となった配車サービスの「ウーバー(Uber)」。スマートフォンのアプリで呼び出したらすぐに来る、登録済みのクレジットカードで決済ができる、イエローキャブより割安で快適、といった新しいサービス形態で人気を博してきた。

私自身もニューヨークでよく利用しているが、どんな人がどういう仕組みで、どうやって稼いでいるのか、不思議に思うことも多かった。そんな折、なんと日本人の友人がウーバーの「運転手」になったという。

西村武展(たけのぶ)、38歳。大手日系金融機関のニューヨーク支社に勤める彼が、副業としてニューヨーク中を走り回っている。謎だらけだったウーバーのからくりを解剖すべく、先日、西村のウーバー車に乗せてもらった。

わずか15秒で迎車リクエスト、乗客の情報はほとんどない

「これってほんと、ゲームみたいなんだよね」。とある金曜日の午後4時、自身が所有するウーバー登録車「トヨタ・カムリ」の運転席で、西村はウーバーのマッチングシステムについてそう切り出した。この日のスタート地点は、初夏の日差しがまぶしいブライアントパーク。道を挟んで紀伊國屋書店がある、マンハッタンのど真ん中だ。

翌日から3連休とあって、仕事を早めに切り上げて帰路を急ぐ人の姿が目に付く。西村が自分のスマートフォンでウーバーの運転手アプリを起動し、「ゲームを開始」すると、わずか15秒で乗客から迎車リクエストが届いた。

驚いたことに、運転手がアプリ上で乗客を「アクセプト(承認)」するまで、スマートフォンの画面に乗客の情報はほとんど何も表示されない。表示されるのは、乗客までの距離や乗客がいるエリアが「乗車価格が●倍に高騰している(もしくは基準値のまま)」という情報、「プール(相乗り)希望かどうか」やその乗客についての(過去に乗せたウーバー運転手からの)評価くらいだ。乗客の名前はおろか、待っている場所、乗せた地点からの行き先がどこなのかといった情報すら分からない。

運転手が「アクセプト」すると、初めて乗客の名前と待っている場所、現在地から迎えに行くまでの推定時間が表示される。乗客の情報として性別や人種、年齢などはもちろん明かされないので(運転手が乗客を選ぶのを防止するためだろう)、ウーバー運転手は迎えに行った先でも、表示された名前からなんとなく男性か女性か程度を判断しながら待つしかない。行ってみたら、待っていたのは子供だった(親が迎車をリクエストしていた)ということもあるという。

乗客がどこに行きたいのかが判明するのも、迎えに行って、実際に客を車に乗せてから。客を乗せ、運転手アプリで「乗車開始(start the trip)」のアイコンをスワイプして初めて行き先が表示される。客はウーバーを呼ぶ際に行き先住所をアプリに入力しているのに、乗車すると運転手から「行き先はここでいい?」と聞かれることがあるのは、運転手もその時に初めて行き先を確認しているからだ。

例えば、運転手が夜遅くにそろそろ今日の仕事は切り上げようかと思っているなか、うっかりアクセプトして乗せてみたら数時間かかる行き先だと判明し、「しまった!」となることもあるらしい。

【参考記事】ウーバーはどのように人工知能テクノロジーを活用しているのか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、中国製ブリキ鋼板の反ダンピング調査開始

ワールド

イスラエルはガザ停戦努力を回避、軍事解決は幻想=エ

ワールド

「英国を再建」、野党・労働党が選挙公約 不法移民対

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中