最新記事

2050日本の未来予想図

日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ

2017年8月8日(火)11時20分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長、元ゴールドマン・サックス金融調査室長)

日本経済の拡大を支えてきたのは勤勉さか人口か HARRY GRUYAERT-MAGNUM PHOTOS TOKYO


20170815-22cover_150.jpg<ニューズウィーク日本版8月8日発売号(2017年8月15&22日号)は「2050 日本の未来予想図」特集。少子高齢化で迫りくる人口大減少。国際的な舞台で現在の影響力を維持できなくなった日本の未来像は中国の衛星国か? 近づく恐ろしい未来に日本人はどう立ち向かうべきか、「窮地に活路」を示す7つの未来予想をまとめた。この特集から、「もはやデフレや日本的資本主義は口実にできない」と説くデービッド・アトキンソン氏による寄稿を転載する>

先進国経済の中で、2050年の日本経済を予想することはとりわけ難しい。

他の先進国の場合、発展する中国経済の影響や欧米の金融危機などさまざまな苦難があっても、政府や学者、経営者などが対策を打ってきた。改革とイノベーションによって経済成長を持続させてきた実績があるため、エコノミストは過去のデータからの「延長線」を引っ張ることで予想が可能となる。

日本でも改革は昔から求められてきた。だが90年代に社会や経済の現状が固定化し、著しい低迷が続いている。92年から25年間ほとんど経済成長していない。ピーク時に日本のGDPはアメリカの70%だったのが、今では4分の1となった。イギリスと比べても、4・1倍から1・8倍に縮小。誰も日本のこうした姿を予想できなかった。

今後、2050年の日本経済をエコノミストが好む延長線予想でみると、人口激減による国の借金と社会保障の負担増大のため、先進国の地位から陥落する結論しか出ない。感情論を抜きにして、計算機をたたけば一目瞭然だ。

その結論から目を背けようと、誰もが日本経済のパラダイムシフトを予想に組み込もうとする。ただ、25年間もそうしたシフトを求めながら、デフレだの日本的資本主義だのと口実ばかりで、いまだに改革ができない。今さらパラダイムシフトを2050年の予想に入れるのは困難だ。

繁栄した最大の理由は人口

ただ人口激減を前に、これまで曖昧にしてきた大改革はもはや避けられない時期に入った。今までは適当にやり過ごしてきたかもしれないが、これからは復活か堕落しかなく、1つの大きな分かれ目となる。アメリカ以外のほとんどの先進国が大変な人口減少時代を迎えるなか、最も早くかつ極端に影響を受けるのが日本経済だ。

日本はGDPで見れば、世界第3位と優位に立っている。「日本には技術があり、日本人は勤勉だから」とよく言われる。それは基礎だが現実に今まで経済規模が大きかったのは、人口が多いという理由に尽きる。GDPは人口と生産性の掛け算だ。日本の人口は約1億2700万人と先進国の中では圧倒的に多く、アメリカに次ぐ2位だ。統計的にも、先進国のGDPは人口と極めて強い相関関係がある。感情論を捨てて客観的に見れば、日本経済が世界第3位の経済となっている最大の理由は人口だ。

【参考記事】「日本に移民は不要、人口減少を恐れるな」水野和夫教授

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、中国製ブリキ鋼板の反ダンピング調査開始

ワールド

イスラエルはガザ停戦努力を回避、軍事解決は幻想=エ

ワールド

「英国を再建」、野党・労働党が選挙公約 不法移民対

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中