最新記事

金融

仮想通貨バブルを各国中央銀行は警戒せよ

2017年9月7日(木)16時00分
沈聯濤(香港大学アジア・グローバル研究所特別研究員)、肖耿(香港大学教授)

誕生から9年でビットコインは既に金融システムの一部に Bodnarchuk/ISTOCKPHOTO

<実体がなく価値を管理することもできない――拡大し続ける仮想通貨とその危険性>

少なくとも8月末に米テキサス州ヒューストンが大洪水に見舞われるまで、各国の金融市場は堅調にみえた。先進諸国では株価指数が最高値を更新していたし、新興経済圏の市場も力強い動きを示していた。しかし現在の水準は市場のファンダメンタルズに基づいておらず、持続不能で、非常にリスクが高い。

著名ファンドマネジャーのモハメド・エラリアンが指摘するように、今の経済成長モデルは「金融機関のみならず中央銀行の供給する流動性やレバレッジに依存し過ぎ」ている。

しかも、このゆがんだシステムを一段と不安定化させかねない要素がある。いわゆる「仮想通貨」の急速な台頭だ。ちなみにIMFはデジタル通貨を「デジタル化が可能な法定通貨」、バーチャル通貨を「非法定通貨」と定義しており、ビットコインに代表される仮想通貨は後者に分類される。

ビットコインの誕生から9年。その法的な地位はともかく、国家の権威に頼らない電子通貨の普及が金融市場を揺さぶっているのは間違いない。この8月15日に1ビットコイン=4483ドルとなった時点で、発行済みビットコインの時価総額は745億ドルと、年初時点の5倍以上に膨れ上がった。それをバブルと呼ぶかどうかは別として、各国の金融規制当局が無視できない規模であることは確かだ。

【参考記事】それでもビットコインは「カネ」になれない

ねずみ講に似た仕組み

ビットコインと、その基盤技術であるブロックチェーンの登場を、各国は当初、興味深く見守っていた。もともと国家の関与しない仕組みだから手を出しにくいという事情もあった。

だが仮想通貨は違法な取引に利用される恐れがあった。実際、「シルクロード」といった違法ドラッグなどの闇サイトはビットコインを使用していた。さらに14年にはビットコイン取引所マウントゴックスが経営破綻し、一部の国は規制に乗り出した。

仮想通貨のリスクはほかにもある。法定通貨も仮想通貨も、金貨などと違いモノとしての価値はない。しかし法定通貨には、その価値の維持に責任を持つ中央銀行がある。対して仮想通貨の価値を決めるのは、それを価値あるものと見なして取引する人々の意思だけだ。そういう人が多ければ多いほど価値は上がる。ある意味、ねずみ講に似た仕組みと言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中