最新記事

トランプ

「トランプがノーベル平和賞」があり得ないこれだけの理由

NO WAY DOES TRUMP DESERVE THE NOBEL

2020年10月12日(月)16時45分
ジョゼ・ラモス・ホルタ(東ティモール元大統領、ノーベル平和賞受賞者)

昨年は隣国との和平を実現したエチオピアのアビー首相が受賞 NTB SCANPIX-REUTERS

<平和に貢献した歴代受賞者や多くの候補者には、ある決定的な資質があった。平和と正義への情熱、よりよい未来を信じる楽観主義、そして──。1996年に同賞を受賞したジョゼ・ラモス・ホルタ氏が寄稿>

ノーベル平和賞候補には、国家元首から医療団、無名の人々まで300を超える個人・団体が挙がる。だが私が知る限り、自分が候補になったことを発表したのはただ1人、トランプ米大統領だけだ。

私は1996年に同賞をいただき、歴代受賞者や数多くの候補と知り合うチャンスに恵まれてきた。平和に貢献する彼らには、ある決定的な資質がある。平和と正義への深い情熱、人類のよりよい未来を信じる楽観主義、そして謙虚さだ。

トランプは平和的デモの参加者に暴力を振るう者を称賛し、自分に反対する人間を嘲り、虚偽を語って支持者をあおる。過激な白人至上主義を支持しているも同然で、歴代米大統領のうち最も多くを成し遂げたと豪語するほど「謙虚」だ。

今回、トランプがノーベル平和賞候補に推薦された理由の1つは、セルビアとコソボの経済協力を仲介したこと。これはプラスの動きだが、結局は貿易上のディール(取引)にすぎない。セルビアとコソボの紛争は1999年に終結している。

もう1つの推薦理由は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化合意という「歴史的な和平協定」への貢献だ。確かにイスラエルにとって前向きな出来事だが、和平協定というよりスンニ派アラブ世界の指導層再編であり、イスラエルと手を組んでシーア派国家の領袖イランに対抗する動きだ。

「和平協定」に先駆けて、アメリカはUAEへのパトリオットミサイルの売却、サウジアラビアへの核技術移転といった中東への武器輸出を拡大し、その額は昨年倍増した。おかげで中東では破滅的な武力紛争の可能性が高まり、長期的にみれば、イスラエル市民を含む中東の全ての住民が大きな危険にさらされている。

パレスチナ人の苦しみは完全に無視され、中東問題の解決策として国際社会が支持する「2国家共存」案を、アメリカとイスラエルは抹殺している。新たな同盟関係が交渉再開と同案の前進につながるなら希望が生まれるが、イエメンの状況を考えると、そんな展開はあり得ない。

2015年に始まったイエメン内戦は複雑化する一方で、政治的解決が必要だ。だがアメリカはUAEなどが加わるサウジアラビア主導の連合軍を支援し、対抗するシーア派武装勢力ホーシー派はその結果として、イランやレバノンのシーア派武装組織ヒズボラとの関係を深めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎

ワールド

英裁判所、アサンジ被告の不服申し立て認める 米への

ワールド

ウクライナ、北東部国境の町の6割を死守 激しい市街
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中