最新記事

トルコ

「プーチンにエルドアンの力を無視する余裕はない...」黒海穀物合意は崩壊の危機...ロシアの離脱とトルコの役割

Battle for Turk Support 

2023年7月25日(火)15時50分
デービッド・ブレナン

ロシアには合意復帰を説得し続けるつもりだ。「ウラジーミル・プーチン大統領は(離脱の)声明とは裏腹に食糧回廊の存続を望んでいると、私は信じる」と、エルドアンは17日に述べた。「ロシア産の肥料と穀物の輸出を再開するために何ができるか(プーチンと)話し合いたい」

かつてトルコのNATO大使を務めたファティ・ジェイランは本誌の取材に対し、「エルドアン大統領は間違いなく説得を重ねるだろう。しばらく交渉が続くはずだ」と予想した。だが早期の合意復帰は期待できないという。

NATOの一員でEU加盟に意欲を見せるトルコはロシアがウクライナに侵攻すると、地中海と黒海をつなぐボスポラス海峡、ダーダネルス海峡をロシアの軍艦が通過することを禁じた。

大量の武器をウクライナに無償供与し、トルコの企業がウクライナにドローン工場を設立することを許可した。6月には捕虜交換でトルコに滞在していたアゾフ大隊の幹部を、戦争終結まで留め置くというロシアとの協定を破ってウクライナに帰国させた。

これまでの態度を翻しスウェーデンのNATO加盟を容認したことにも、ロシアは失望しただろう。

とはいえトルコは昔からロシアと経済的な結び付きが強く、今もその恩恵を受けている。EUやG7諸国が対露制裁に踏み切って以来、ロシアとの貿易は大幅に拡大した。

6月のトルコの輸出額は、年初から約88%増加した。今年1~6月の対露輸出額は49億ドルで、前年同時期の26億ドルから飛躍的に伸びた。

避けたい露との直接対決

関係の変化により、エルドアンは影響力を増した。

「トルコがロシアを必要とする以上にロシアはトルコを必要としていると思う」と、ジェイランは言う。「今のロシアにトルコの力を無視する余裕はない。だが関係が緊張することはあるだろう。ロシアは楽な交渉相手ではない」

合意の復活について、ジェイランはこうみている。「交渉の余地はあり、トルコの主導で妥協点を見いだすことは可能だろう。それが4者──トルコ、国連、ウクライナ、ロシア──の枠組みになるのか、3者あるいは2者間の協定で補い合う枠組みになるのかは分からない」

ロシアが離脱したイニシアティブとはかなり異なる枠組みになると、ジェイランは考える。「異なる条件が盛り込まれるだろう。だがそれを特定するには時期尚早だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領と外相が死亡、ヘリ墜落で 国営TVは原

ビジネス

マスク氏、インドネシア大統領と会談 EV電池工場の

ビジネス

大和証G、26年度経常益目標2400億円以上 荻野

ビジネス

四半世紀の金融緩和、金利低下で企業経営の支えに=日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中