最新記事
日本社会

休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年で倍増している

2024年4月18日(木)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
何も乗っていないお皿

中年層で増加しているのは、未婚率の上昇や収入の減少で、単身の困窮者が増えたためと見られる ARX0NT/ISTOCK

<深刻なのは中年層でこうした人が大幅に増えていることと、14歳以下の子どもでも倍増していること>

物価高が人々の暮らしを脅かしている。レジャーや奢侈品の購入を控えるだけでなく、食を切り詰める人も多い。それを通り越して、ご飯を食べない(食べられない)人も出てきている。

20~24歳の若者を見ると、日曜日に食事をした者の割合は92.8%(総務省『社会生活基本調査』2021年)。裏返すと、残りの7.2%は1日中食事をしなかったことになる。1996年の同じ数値は3.8%で、ご飯を食べない若者が増えていることが分かる。

間食は「休養・くつろぎ」、知人との会食は「交流・交際」という行動カテゴリーに属するが、「食事」という行動をしない者の割合は、食を疎かにする(せざるを得ない)人がどれほどいるかの指標と見ていいだろう。

2021年の20~24歳人口は621万人ほどなので、先ほどの7.2%をかけると、日曜日にご飯を抜いている人の実数は45万人と見積もられる。他の年齢層についても同じやり方で実数を出し棒グラフにすると、休日にご飯を食べない国民の年齢ピラミッドが出来上がる。<図1>がそれだ。

newsweekjp_20240418070924.png

まず全年齢層を足した合計値を見ると、1996年では138万人だったが2021年では271万人となっている。この四半世紀で、ご飯を食べない(食べられない)人が倍増していることになる。

年齢層別に見ると、両年とも最も多いのは20~24歳となっている。1996年は35万人、2021年は47万人だ。単身の困窮学生などだろう。いわゆる闇バイトに手を染める学生が増えているというが、食うにも困る生活困窮が理由であることも多いのではないか。腹ペコの若者が増えることは、社会にとっての脅威となる。

以前と比べた増加率は、中年層で高くなっている。未婚率の上昇や収入の減少により、単身の困窮者が増えているためとみられる。「ロスジェネ」などの世代の要因もあるだろう。高齢層でも増えていて、65歳以上の実数は5万人から22万人と4倍以上に増えている。カツカツの暮らしを強いられている年金生活者の実態は、よく報じられるところだ。筆者の世代(ロスジェネ)が高齢期になる20年後は、もっと悲惨な事態になっているだろう。

数は少ないものの、一番下の子どもにも注目しないといけない。2021年で言うと、日曜日にご飯を食べない「ゼロ食」の10~14歳は約6万人。間食や会食は考慮されていないとはいえ、ショッキングな数字だ。少子化にもかかわらず、四半世紀にかけて倍増している。子どもの貧困が進んでいることの表われだ。

別のデータもある。文科省の『全国学力・学習状況調査』によると、朝食を全く食べない小6児童(公立)の割合は2013年では0.7%だったが、2023年では1.5%に増えている。最近の小学生は600万人ほどなので、1.5%をかけると、朝ごはんを全く食べない(食べられない)小学生が全国に9万人いる計算になる。ラフな見積もりではあるものの、これも恐ろしい数字だ。「給食が頼みの綱で、休日にはご飯を食べられない子がいる」という声も、現場で聞かれるところだ。

国として詳細な実態調査を行い、対策を講じる必要がある。

<資料:総務省『社会生活基本調査』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中