コラム

フランス領コルシカ島に忍び寄るカタルーニャ独立騒動の余波

2017年11月29日(水)19時00分

コルシカ独立運動の歴史

コルシカは、1347年以降4世紀に及ぶジェノバ共和国による支配を経て、1735年に独立を宣言した。しかし、ジェノバはそれを無視し、1768年5月に一方的にコルシカをフランス王国に譲渡した。翌69年5月に、フランスはコルシカを軍事力で制圧し、その支配下に組み入れた。奇しくもナポレオン・ボナパルトは、その3か月後、1769年8月にコルシカ島の中心都市アジャクシオで生まれている。

この島で民族主義が高まり、武装闘争を含む過激な独立運動に発展していったのは、1970年代以降だ。その前の60年代に、アフリカ植民地が次々と独立していくなかで、そこからの引揚者の一部がコルシカに移住してきた。しかも、それは国策として奨励され、移住者は島の東部平原地帯に土地を与えられた。そうして住みついた人々は、島の当時の人口の10%を占めたとされる。それに輪を掛けたのが、アルジェリアの独立に伴い、現地から引き揚げてきて、コルシカに住みついた多数の元入植者たちだ。その数は17,000人にものぼるとされる。

こうした新規定住者と現地住民との間にあった、言葉の違いや文化の違いが、島の人々に、コルシカ民族としての自覚を高めていった。加えて、島の経済発展が遅れていたことが、国の引揚者優遇政策とあいまって、島民の中で、移住者に対する反発を生むことになった。

そうした刺々しい雰囲気のなかで、1975年8月に、アルジェリアからの引揚者の経営するワイン醸造所で起きた、民族運動グループによる襲撃事件をきっかけに、コルシカ民族主義の炎が燃え広がっていった。1976年5月には、コルシカの独立を目指すコルシカ民族解放戦線(FLNC)が結成された。FLNCは島内で、そしてフランス本土でも、警察や軍、国の機関や要人への襲撃、時限爆弾や爆発物による攻撃などのテロ活動・武装闘争を繰り広げていった。それだけでなく、移住者の家や農園なども標的とされた。そのピークとなった1979年1月から3月の間の3か月間で、115件の爆破襲撃事件が島内で発生した。

1980年代に入ってからは、首謀者や指導者が相次いで摘発・逮捕されたこともあって、地下活動から街頭活動へと活動の場を広げ、収監されている指導者の釈放や政治犯としての扱いを求めるなど、政治運動にも力を注ぐようになる。こうして一時的に停戦は実現するが、停戦に同意しない一部の活動家による襲撃事件は後を絶たず、90年代にかけて不穏な情勢が継続した。

90年代には、FNLC内部で路線の食い違いや個人的関係の悪化などによる内部分裂が発生し、内部闘争にまで発展した。身内同士の内紛として、凄惨な襲撃事件がお互いの間で繰り広げられた。また、1996年12月には「クリスマス攻撃」の名のもとに、FNLCはコルシカ島内の警察や軍の施設を襲撃、1998年2月には、フランス政府から派遣され駐在していた州知事が襲われ暗殺された。

こうして、当初の標的とされた本土出身者や国の関係者だけでなく、身内や現地人にも多数の犠牲者が出るようになり、武装闘争への批判や闘争疲れがでてきた。加えて、活動家の多くが逮捕され服役するなかで、武装闘争路線は2000年代以降、一部の分派活動家を除き、下火になっていった。その挙句、ついに2014年6月にFLNCは、武力闘争の終結、武装解除と、非合法組織からの脱却を宣言するに至ったのである。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

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