コラム

映画「パラサイト」に隠れている韓国のもう一つの「リアルさ」

2020年02月21日(金)16時15分

映画『パラサイト』内で印象的な歌があったが...... Eric Gaillard-REUTERS

<映画『パラサイト』内で印象的な歌は、韓国の国民歌謡、『独島はわが領土』の替え歌だとすぐに気づいた......>

映画『パラサイト』が米国アカデミー賞で作品賞、監督賞など4冠に輝いた。非英語圏の作品として初めて認められた作品賞であり、有力な候補作として名前の挙がっていた『1917』、『ジョーカー』などを抑えての4部門での受賞は韓国映画史に残る快挙だと、韓国中が沸いている。

日本のマスコミも、映画『パラサイト』の紹介にとどまらず、韓国映画の強みにスポットライトを当て、日本映画界と比較しその問題点を探ったり、映画界に対する韓国の国家的支援、マーケティング手法にも注目し分析するなど、今回の受賞に少なからず刺激を受けているようだ。

特に日本のメディアが注目しているのは映画の中でリアルに描かれた韓国低所得層の生活だ。映画では失業状態の家族4人が「半地下」と呼ばれる韓国特有の住環境で生活する様子が容赦なく赤裸々に描写されている、と絶賛している。

半地下に住む主人公たちに当たり前のように染み付いた地下室の匂い、逆流しないよう床よりも高い位置に設置された便器、カビだらけの壁紙、大雨が降る度に避けることのできない浸水など、韓国低所得層の生活環境の描写は特に高評価を得ている。

だが日本のマスコミは映画の中に描かれた「低所得者の環境」、「格差社会」という社会的構造にだけしか目が行っていないようだ。実はこの映画の中には韓国人以外の観客であれば見逃してしまうであろう、もう一つの「リアル」もしっかりと描かれているのだ。

替え歌として登場したプロパガンダ・ソング「独島はわが領土」

映画の中で話題となった場面の中の一つに主人公兄妹が二人で替え歌を口ずさむ場面がある。詐称する学歴、経歴、人間関係を覚えやすいように歌のメロディーに乗せて口ずさんで暗記するというシーンだ。映画の中では「ジェシカは一人娘、イリノイ シカゴ、大学の先輩はキム・ジンモ、彼はアンタのいとこ」と歌われていた。

私はこのメロディーを聞いた瞬間、これが韓国の国民歌謡、『独島はわが領土』の替え歌だとすぐに気づいた。この部分の歌詞は原曲では「鬱陵島の東南方向、航路に沿って200里、ひとりぼっちの島、鳥たちの故郷」というものだ。原曲の歌詞自体が独島(日本名:竹島)の地理、歴史などの情報を単純に羅列したもので、韓国人の独島に対する一般的な知識はほぼ全てこの歌詞とイコールであるといっても過言ではないかもしれない。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、支援的な金融政策に期待

ビジネス

EXCLUSIVE-米検察、テスラを詐欺の疑いで調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story