コラム

【2021年の重要課題】日本の右派ポピュリストが進める改憲論議に乗ってはいけない

2020年12月29日(火)17時42分

安倍政権は倒れても、改憲準備は終わらない Franck Robichon/REUTERS

<国民民主党の山尾志緒里が「論座」への寄稿で「改憲ありき」の姿勢を打ち出し、政治系アカウントで話題になった。改憲は必要ない、というこれまでの野党の立場から一歩踏み出した形だからだ>

12月21日、国民民主党の山尾志緒里衆院議員が、『国民民主党「憲法改正への論点整理」に込めた願いは愚民思想からの卒業』という論考を『Web論座』に投稿した。山尾議員は民進党分裂後、当初は立憲民主党に所属していたが、国民民主党に移籍して以降、持論の憲法改正論をより激しく主張するようになっていた。

現在の国民民主党は、旧国民民主党のうち立憲民主党に合流しなかった議員によって構成されており、中道から中道左派路線をとる立憲民主党に対して党の独自性を強調するためなのか、右派ポピュリズム路線へと傾斜し始めている。

主要野党はこれまで、立憲主義を無視した政権のもとでは憲法改正の議論はできないという方向性で一致していた。山尾議員もその方向性は支持している。しかし憲法改正それ自体の議論はするべきで、それを避けようとするのは、日本国民に憲法を論じる能力なしというマッカーサー的「愚民思想」に陥っているという。

憲法改正論議の必要性?

憲法改正のための手続きは、憲法典の中に組み込まれており、改正が必要であれば当然それを用いるべきだ。だがそれは特定の政策課題を進めたとき、憲法の改正を伴わなければどうしようもない場合になって初めて浮上してくる可能性なのであって、他国で行われている憲法改正もそのようなものになっている。

まず憲法改正ありきで、その内容をみんなで議論して決めましょうなどということを政治家が言っている国は、日本だけではないだろうか。

日本国憲法は大日本帝国の破滅後、ポツダム宣言受諾によって生じた法学上の「革命」によって、それまでの「国体」のあり方をほとんど全否定するかたちで誕生した。この経験は日本の支配層のトラウマとなり、「自主憲法」制定をイデオロギー上の悲願とする保守政党を生み出した。現在「時代に合った新しい憲法」あるいは「憲法の国民的議論」といった、一見進歩的で民主的なスローガンを伴った改憲論議も、結局はこの「自主憲法」路線の延長であって、「とにかく憲法を一からつくりたい」という子供じみた欲望を示している。

「愚民思想」と立憲主義

近代憲法の役割は、権力の拘束である。どれほどの政治の力であっても、法の力には敵わない。「政治家は愚民論をとるべきではない」と山尾議員は主張する。しかし立憲民主主義は、ある意味ではそもそも、人民は愚かな選択をとるかもしれない、ということを前提にしているのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独首相、ウクライナ大統領と電話会談 平和サミット支

ビジネス

円安で基調物価上振れ続けば正常化ペース「速まる」=

ビジネス

米中堅CLO、高金利で信用の質が低下=ムーディーズ

ビジネス

英国でのIPO計画が増加、規則改正控え=ロンドン証
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story