コラム

「冷笑系」はなぜ活動家を嫌うのか

2022年10月25日(火)10時26分

宮古島へのミサイル部隊配備に抗議する長年の反戦活動家・清水早子さん(4月21日) Issei Kato-REUTERS

<ひろゆき氏が沖縄で基地反対の座り込みをしている人たちを揶揄したとき、それが「クール」だと便乗する人の心理>

2ちゃんねる創始者で元管理人の西村博之氏が、沖縄・辺野古における新基地建設反対派を重箱の隅をつつくようにして揶揄したことが現在でも波紋を広げている。24時間かたときも座り込みをする訳ではないのならそれを座り込みとは呼ばないか否かは、実のところ本質ではなくまったく重要な要素ではない。

重要なのは抗議の継続性であり、その文脈の中で座り込みという単語を使っているに過ぎない。キャンプシュワブのゲート前で昼夜を問わず居座り続けることは物理的に不可能であることはよく考えなくともわかる。「24時間継続しているわけではないこと、それが何だというのだろうか?」で終わる話であるが、こういった微細な点をあげつらって嘲笑にのネタに使っている姿は端的に下品であり、観るに堪えない。

「何かの社会問題や政治課題を解決するために熱心に活動している人」を見下したり馬鹿にしたり揶揄したりすることがクールだ、という風潮が広がっている。これをネットスラングで冷笑系、などと言ったりする。読んで字のごとく冷たく笑うのであるが、正確にいえば冷たくあざ笑う人々である。西村氏がすべてそうであるとまでは言えないが、彼もこの冷笑系の筆頭として例示されることは多い。

イデオロギーとは無関係

なぜ彼らは「熱心に何かをやる人」を笑うのだろうか。イデオロギーはあまり関係はない。冷笑系と呼ばれる人々は同時に「熱心に愛国活動をする人」をも嘲笑の対象にする場合があるので、時と場合によってはネット右翼と呼ばれる人々も標的になる。政治的信条の左右における特定の層を好んでターゲットにしているわけでもない。

知識が無いからである。「熱心に何かをやる人」を面と向かって理論で屈服できるだけの最低限度の知識を有していないので、微細なミスをあげつらって笑う事しかできないのである。つまり冷笑系とは「無知がゆえに他者を笑う事しかできない人々」と言い換えることもできる。

沖縄の場合を例にすれば、辺野古新基地に賛成、中立、反対、様々な立場が尊重されてよい。ならば辺野古新基地はなぜ必要であるかを滔々と説けばよいが、それをするだけの知識量を持たないのでゲラゲラ笑う事しかできないのである。沖縄の歴史、沖縄戦、日米安保、そして1995年の沖縄少女暴行事件を直接の切っ掛けとする日米交渉と普天間返還合意。こういったことを勉強すればそれなりに新基地建設賛成の立論もできなくはないと言える、面倒くさいことはやりたくない。物事を体系的にとらえ、知識を準備したうえで相手を説得するという術を持たないので、ケタケタ笑うことしかできないのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:DVによる経済損失、GDPの1─2%も 

ワールド

イスラエルは民間人保護の「信頼できる計画」を、米国

ワールド

ロシア大統領、ショイグ国防相を交代 後任にベロウソ

ワールド

アフガニスタン北部で洪水、315人死亡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story