コラム

ギリシャが抱える構造的問題──経済危機の次は隣国との小競り合い

2018年08月14日(火)13時30分

ギリシャのツィプラス首相は長引く危機を脱することができるか ERIC VIDAL-REUTERS

<国内経済・社会に蔓延する危機的状況とマケドニア・トルコとの小競り合いの行方は>

ギリシャは2010年以降、経済の低迷に苦しんでいる。元凶は、長年の借金によって財政赤字が膨らみ、破綻の瀬戸際に立たされたことだ。

EUは、加盟国であるギリシャの救済に乗り出した。それと引き換えに厳しい緊縮財政を強いられたギリシャ国内では、緊縮策への反発からEU離脱を支持する声も吹き荒れた。

それに加えてギリシャは、隣国マケドニアに攻め入る意思をちらつかせている(原因は「マケドニア共和国」という国名だ)。さらに長年の宿敵であるトルコとは、領有権を争う島々や沖合にありそうなガス田をめぐって対立している。

ギリシャは一体なぜ、これほどの火花をヨーロッパにまき散らすのか。

10年にデフォルト(債務不履行)への不安からギリシャ国債が暴落すると、ギリシャ危機はユーロ圏を崩壊させるかに思われた。ギリシャの失業率は08年の約8%から15年には約25%に上昇し、この間にGDPは実に約45%縮小。ギリシャがユーロ圏を離脱し、デフォルトに陥るというシナリオも想定された。

しかしギリシャの10年以降の低迷は、「怠惰」なギリシャ人が引き起こしたものではなく、ユーロ圏の構造的な問題と、10年頃からの世界的不況が原因だ。統計によれば、ギリシャ人の労働時間はドイツ人よりも長い。

社会保障を7割カット

いま表面化しているマケドニアやトルコとの対立の歴史も、財政危機のはるか前にさかのぼる。ギリシャは数十年もの間、ギリシャ北部のマケドニア地域について、同じ名前の国、マケドニアが領土的野心を示すことを危惧していた。一方で、トルコとの領土紛争は、ギリシャが1832年にオスマン帝国から独立したときから続いている。

ギリシャ国内の反EUムードは、ギリシャ危機後にEUによって課せられた緊縮政策によるところが大きい。ギリシャは、危機への対応策として予算を均衡化するため年金と社会保障を7割カットし、公益事業などの民営化や増税に踏み切った。

締め付けは、経済的にも社会的にも政治的にも厳しく、疲弊したギリシャはユーロ圏からの離脱を選択するのではないかと懸念された。緊縮財政によって当然ながら失業率は急上昇し、賃金は約2割低下した。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story