コラム

アフガン難民はどこへ? 受け入れめぐるEU加盟国の不満といさかい

2021年08月25日(水)19時55分

フライトを待つアフガン避難民の子供たち(8月19日、カブールのハミド・カルザイ国際空港) Mark Andries/U.S. Marine Corps/Handout via REUTERS

<「これ以上受け入れられない」「帰還させる」というシグナルを発してきた欧州各国はどう対応するのか>

※当記事はYahoo!ニュース 個人に投稿されたコラム(2021年8月16日付)からの転載です。

この原稿が公開される頃には、既にアフガニスタンの首都カブールは、タリバンによって無血開城されていることだろう。

すでに、避難して亡命しようとする人々の出国ラッシュは始まっている。空港では、アメリカのビザを求める人が、群れとなっている。もちろん、陸路で逃げる人もいる。

これから一層増えるのは明らかだろう。何千人? 何万人? そのうちどのくらいの人が欧州を、日本を目指すのだろうか。

EUとアフガニスタンの共同宣言

この問題は既に、欧州連合(EU)では話し合われていた。そして既にもめていた。

何にもめていたかというと、「アフガニスタンへ強制帰還させる移民を、今のうちに送ろう!」とする6カ国の動きのためだった。

一体これは、何なのだろうか。

数ヶ月前の今年の4月26日、EUとアフガニスタンは、移民に関する共同宣言に署名していた。

これは主に、不法移民の撲滅と、移民の「密輸」や人身売買との闘いに関するもので、共同で努力していこうとする内容だ。

「アフガニスタン国民の自発的な帰還を促すこと、帰国者が母国で持続的に再統合できるように促すこと」が目的だという。

──というとわかりにくいが、要するに、欧州はこれ以上もう難民申請者を受け入れるのは無理だから、アフガン移民を母国に帰したい。ただし、強制送還ではない。人権に配慮して、ちゃんと母国で暮らしていけるように配慮して、本人が納得した上で帰国してもらおう──ということだ。

そして、すべてのEU加盟国は、非定期便による共同帰還活動に参加できるという内容も書かれている。つまり、飛行機の臨時便を出す際には、EU加盟国はアフガン移民を乗せて帰ってもらうことができますよ、ということだ。

6カ国の書簡が流出してバレた

ところが、アメリカ軍の撤退の決意によって、アフガニスタンの状況が急速に変化した。

首都カブールに在住しているアメリカ市民や各国の人々の撤退が始まり、各国大使館員ですら逃げ出すようになってきた。

そんな中、8月5日、オーストリア、デンマーク、ドイツ、オランダ、ベルギー、ギリシャの6カ国の大臣は「共同声明に基づいたアフガニスタン移民の帰還が、緊急に必要である」と、欧州委員会に宛てて、書簡を書いて署名した。

これが、ベルギーの報道機関に流出してしまって、大騒ぎになったのである。

もちろんだが、大きな批判が起きた。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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