コラム

危機下のウクライナに「ヘルメット5000個」 武器提供を拒むドイツの苦悩

2022年01月29日(土)08時55分
独ショルツ首相

「緊張状態を悪化させるだけ」として武器提供を拒否した独ショルツ首相(1月21日) Michael Sohn/Pool via REUTERS

<第二次大戦の「過ち」を繰り返すことになるとして、ドイツは武器提供を認めていない>

ウクライナ情勢が、緊迫感を増している。

バイデン大統領は1月21日「ロシアのウクライナ侵攻はあると思う」と発言。アメリカと英国が声高に危機を叫び、各国の大使館員や、同国民の退避が始まっている。

そんななか、針のムシロとなっているのが、ドイツである。

ウクライナから何度も軍事支援を頼まれているにも関わらず、ドイツのショルツ政権は、改めて拒否を示した。ここでいう「軍事支援」とは、何も軍隊を送るようなことではない。武器の提供である。

アメリカ、英国、バルト三国、ポーランド、チェコ等は、ウクライナへ武器を提供する。

こう書いている間に、ドイツがウクライナにヘルメットを5000個を供与すると発表し、これまた火に油を注ぐ事態になっている。

ショルツ政権は、武器提供は現在の緊張状態を悪化させるだけであるとし、外交での解決を望んでいる。

これらの報道を見るたびに、ドイツの立場が日本に近く感じられて、複雑な思いを抱いてしまう。

実はこの問題には、第二次大戦の歴史問題が大きな影響を及ぼしている。その話に入る前に、ドイツがどんな非難を受けているか、どのような状況かを説明したい。

アメリカやウクライナから非難轟々

ドイツには紛争地域へ無許可で武器を輸出するのに規制がある。

この規制は、第三国を経由して提供される場合にも適用されるため、ドイツはエストニアに対し、ウクライナへドイツ軍の武器を送ることを拒否した。

この態度に対して、ウクライナから猛反発がうまれたのだ。同国のクレバ外相のインタビューを、ドイツの『Die Welt』紙は掲載した。ここで外相は「失望した」と語っている。

また、ドイツの大衆紙『Bild』は、首都キエフの市長で、元ボクサーのクリチコ氏がドイツを非難する記事を掲載。「危機にある人へ支援しない」「劇的な状況での友人への裏切り」と立腹している。

このクリチコ市長は、5000個のヘルメット供与に対しても、同じく『Bild』紙に対して、「言葉を失った」「ヘルメット5000個なんて冗談もいいところだ」「次は何を送るつもりだ? 枕か?」と、皮肉を言って不満を表明しているという。

このように、ウクライナの猛反発をドイツの新聞が伝えているのだが、前述のどちらの新聞も、保守的なメディアグループであるアクセル・シュプリンガーに属するものであると、フランスの『ル・モンド』は伝えている

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、物価圧力緩和まで金利据え置きを=ジェファー

ビジネス

米消費者のインフレ期待、1年先と5年先で上昇=NY

ビジネス

EU資本市場統合、一部加盟国「協力して前進」も=欧

ビジネス

ゲームストップ株2倍超に、ミーム株火付け役が3年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story