コラム

自画自賛する「コロナの女王」本にサイエンスはあるか?

2022年03月17日(木)12時00分

HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN

<楽観的な専門家に対比して未曽有の危機に立ち向かい、リスクを取ってメディアで発言する岡田晴恵氏の姿がヒロイックに描かれるばかり――そこにサイエンスはあるのか?>

今回のダメ本

ishidoAMAZON220316-02.jpg『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録
岡田晴恵[著]
新潮社
(2021年12月20日)

テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』が、新型コロナ報道で一つの立場を代表して牽引してきた番組であることは間違いない。著者は名物コメンテーター・玉川徹氏と共に連日のように出演し、「徹底的なPCR検査と隔離」を強く訴え、国の姿勢や今も分科会に名を連ねる専門家を徹底的に批判してきた。付いた異名は「コロナの女王」。「いつでも、どこでも、何度でも検査を受けられるモデル」を目指す世田谷区のように、その主張に歩み寄るような自治体も出てきた。彼らは現実にも一定の影響力を持ったのだ。

本書で描かれるのは、あくまで岡田氏というフィルターを通して描かれる新型コロナ禍だ。強い批判の対象になっている、初期から現在まで国に助言をしてきた尾身茂氏ら専門家、 逆に理解のある政治家として描かれる田村憲久・前厚労相との赤裸々なやりとり――もっとも、どこまでが事実なのかはなかなか分からないのだが――はそれなりに興味深い。実 際に記述どおりだとするのならば、 田村氏は「ゼロコロナ」のような幻想を早々に諦め、新型コロナに合わせた医療体制の整備に突き進んでいたことになる。その姿勢は大いに賛同できる。

だが本書のほとんどの主張は一部のメディア、医師の界隈で受けるだけにとどまるだろう。実際に診察に当たってきた多くの医療従事者にとっては看過できない主張が、いまだに注釈なく記されているからだ。

一例を挙げよう。岡田氏は2021年年初めの第3波到来時に、こんな訴えを田村氏にしたという。「アビガンがダメなら、せめてイベルメクチンを国民にお願いします。イベルメクチンの安全性は担保されています。どうして効くのかははっきりしませんが、いろいろなウイルスで増殖抑制がみられます」

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、就任2年で会見 経済重視 

ビジネス

中国・碧桂園、元建て債利払いできず 国有の保証会社

ビジネス

アングル:状況異なる2度の介入観測、市場に違和感 

ビジネス

ブラザー、ローランドDGのTOB価格引き上げず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story