コラム

「ブレグジット大混乱」報道では見えない真のイギリスの現状

2019年03月27日(水)16時45分

ブレグジットの「大混乱」「危機」ばかりが報じられるがイギリス経済は堅調、日常生活はほぼ穏やかで人々はブレグジットの話題にうんざりしている Dylan Martinez-REUTERS

<ブレグジットの展開は複雑で変化が激しいが、庶民目線で今のイギリスを理解する6つのポイント>

いつもながら、ブレグジット(イギリスのEU離脱)については、テーマが壮大過ぎて状況が目まぐるしく変化しているだけに書くのが難しい。だから、ここで挙げるいくつかのポイントが、状況を理解する助けになること、このブログを読者が読むころにまだ古くなっていないことを祈るばかりだ。

第1のポイントだが、ジャーナリストたちは「政治的大混乱」「構造的危機」というような強い言葉を頻繁に使っている。だが彼らはこの言葉を、まさに今の状況にあてはめている。これまでの経緯をきちんと追ってきた人なら、多くの紆余曲折があったことを知っているだろうし、この問題がどんな結末で終わるのか本当に分かっている人など誰もいないことに気づくだろう。

第2に、ブレグジットの分断線はとても入り組んでいる。ブレグジットは保守党と労働党という二大政党を横断して意見を割っているため、イギリスの政治システムに「フィットする」ものではない。政府は自らの与党・保守党の議員に対して、彼らが離脱に反対していようと、政府の離脱案より急進的な離脱案を支持していようと、政府案に賛成するよう強制することができない。野党・労働党内でも、離脱支持派と離脱反対派が入り混じっている。

2017年に行われた直近の総選挙では、保守党も労働党もブレグジット遂行の立場を主張し、合わせて82%の票を得た。ブレグジットに明確に反対を唱えた2党、つまり自由民主党とスコットランド民族党は10%前後のイギリス人有権者の票を得ただけ。ところが現状では、多くの議員がブレグジットに反対している。

第3に、この行き詰まりを招いたことに関して、デービッド・キャメロン前首相も重大な責任を負うべきだ。彼は、「離脱」という結果が出た場合にどう実行していけるかも計画しないままにブレグジットの是非を問う国民投票を実施した。彼は「残留」に賭け、そして賭けに敗れると辞任した。

だからこそ、第4のポイントだが、僕が思うに多くのイギリス人は今もまだテリーザ・メイ首相に同情を抱いている。彼女は自身の計画を押し通そうとしているから傲慢に見えているかもしれない。あるいは自身の計画を押し通せずにいるから弱腰に見えているかもしれない。ブレグジット反対派は、ブレグジットを推し進めているという理由でメイを嫌う。ブレグジット賛成派は、彼らの思い描く夢のブレグジット(あるいはどのような形のブレグジットでも)を実行してくれないからという理由でメイを嫌う。でもイギリス国民は、彼女が難しい立場を引き継ぎ、自らの信念に従って努力してきたことをきちんと理解していると、僕は思う。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story