コラム

プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体

2019年10月03日(木)18時30分

こわもてで鳴らすプーチンだが、実は「愉快な」人かも Alexei Nikolsky-KREMLIN-REUTERS

<独裁者が君臨するこわもてロシアの素顔は実は「ずっこけ」――この国に振り回されず、うまく付き合う方法は?>

ロシアと言うとすぐ「おそロシア」とか、もろ肌脱いだこわもてのウラジーミル・プーチン大統領といった話になるが、まじめくさった議論はもう飽きた。実はこの国の人たちはかなりずっこけた「ざんねんな」存在。ロシアを知る者には、それがまたたまらない味なのだ。

世界を席巻する人工知能(AI)やロボット技術について、プーチンの腹心である元財務相アレクセイ・クドリンは、「この開発に遅れれば、ロシアは永遠に遅れることになる」と決まり文句のように言う。奇想天外なことを考えるのが好きなロシア人だから、AIやロボットの開発には向いている。だが経営・技術要員の致命的な不足や製造技術、品質管理、サプライチェーンの遅れによって、多くはアイデア倒れに終わってしまう。

2013年には角速度センサーを逆向きに付けたため、ロケットが発射直後に反転して地上に激突した。開発中のロボットが研究所から迷い出て、大通りの真ん中でバッテリー切れになったこともあった。プーチンは「原子力で長期間、空中待機する巡航ミサイル」を造ると豪語していたが(簡単に撃墜されると思うのだが)、今年8月にはそれが開発中に爆発して技術者を5人も殺し、放射能をまき散らした。

プーチンはじめロシア政府のお歴々は口をそろえて、「いつまでも経済・財政を石油に依存していてはいけない。製造業を何とかしないとロシアはやっていけない」と言うのだが、製造業はロシアのアキレス腱であり続ける。数年前、プーチンは友人の実業家が開発した国産乗用車の試乗会に招待された。ハンドルを握る友人の隣に乗り込むプーチンは冗談半分、「おい、君。大丈夫だよね。この車バラバラにならないよね」と聞いたのだった。

プーチンは独裁者にあらず

ロシア人は契約や規則より、まず自分の都合を優先する。きちんと仕事をしてもらいたかったら、いつも電話で友情を確認し、月に1度は飲みに行くくらいでないといけない。

知識層の地金は西欧のリベラリズムだが、人間の常でロシア人も汚いところは、どうしようもなく汚い。例えばモスクワの墓地は利権の塊だ。「いい場所」は、顧客から袖の下を巻き上げる黄金の小づちでもある。今年6月には、警察幹部が絡む墓地利権の調査をしていた新聞記者が警官からポケットに麻薬を突っ込まれ、麻薬密売未遂の容疑で逮捕される事件があった。非難の声が巻き起こり、事件を仕組んだ警察幹部2人が懲戒免職になっている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、新たな対ロシア制裁発表 中国企業を狙い撃ち

ビジネス

米地銀NYCB、向こう2年の利益見通しが予想大幅に

ビジネス

FRBの政策金利決定、大統領選の影響受けない=パウ

ビジネス

ドル一時153円まで4円超下落、介入観測広がる 日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story