コラム

日本の存在の大きさを認めて「下働き国家」への凋落を回避せよ

2020年01月07日(火)17時00分

世界をもてなす準備はできているか(新国立競技場) ISSEI KATO-REUTERS

<「おもてなし」を自動翻訳機に頼る日本......五輪イヤーの今年こそ自らの国力を理解して世界に開くべき>

今年はオリンピックイヤー。世界が日本にやって来る。にもかかわらず、日本は内向きムードだ。大学入試共通テストでの英語民間試験の活用、そして国語と数学での記述式導入はいずれも見送りが決定した。これでは「おもてなし」をするにも自動翻訳機に頼り、何かを聞かれても自分の意見を言えない日本人が再生産され続けることになる。

加えて景気は下り坂。「日本は縮む」という、自縄自縛の呪文が再来するだろう。財政・金融の大盤振る舞いで何とか耐えてきた安倍政権も、アメリカのカジノ王との統合型リゾート(IR)をめぐる利権構造が暴かれれば、突然死を迎えるかもしれない。世界でも内向き傾向が強まるなか、日本でも「国際化」の機運が逆回りしそうだ。

だが、世界における日本の店構えはまだまだ大きい。日本のGDPが世界全体の5.7%(2018年)にまで下がったと憂う日本人もいるが、人口比で世界の1.6%でしかない国がこの規模のGDPを有することは大したことで、これはカネと技術が日本に集中していることを示す。人口減少でも労働人口は増えており、これまで稼いだカネを死蔵せずに投資で増やせば、経済の縮小を防ぐことは容易だろう。

そして、円の価値は過小評価されている。円高になればドルベースのGDPはぐっと上がる。さらに日本は、海外に1000兆円分を超える資産を持っており、それが生む利益の一部(18年で約23兆円)は日本に還流されている。

日本の富の基本を稼ぐ製造業では、電機・電子製品こそ輸出競争力を失ったが、先端部品や素材、製造機械の分野でかつての電子立国時代と同程度の輸出額を維持している。幸運なことに、自営農業が村落の主流だった江戸時代からの良き伝統なのか、日本人には自主性や自助努力の気概を持つ人間が多くいる。これが製造業やサービスの質を、現場から支える。

アジアとアフリカでは中国マネーが幅を利かせているが、長期低金利の円借款をはじめとする日本のODAの総額(2017年)は年間2兆円を超え、世界でも3位の規模。アジアでも、アジア開発銀行(アメリカと並び日本は出資比率トップ)を通じて円借款にも劣らない規模の資金を供与し、インフラ建設支援を続けている。日本のODAと直接投資はASEAN(東南アジア諸国連合)経済の飛躍に大きく貢献し、それは韓国や中国についても言える。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第1半期は55%増益 投資

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story